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√ 六・アスナ・ギーヴルは死んで……②

 小さな畑を耕しているアスナの姿を眺めていると、轟音と軋み音を響かせて木製車輪がついた。海賊船が走行してきて畑の上に停まった。

 甲板に立つ海賊の格好をした若い男が、アスナを見下ろして冷ややかな口調で言った。

「まだ、そんなムダなコトをやっているのか」

 海賊の配下たちも、アスナを見下ろして眺めている。


「さっさと、自分が死んでいるコトを認めやがれ……こんな枯れた土地に種なんて蒔いてもムダなんだよ」

 微笑み見上げるアスナ・ギーヴル。

「なに言っているんですか? あたし死んでなんていませんよ……明日結婚するんですから」

「それが、ムダだと言っているんだ! ムダ、ムダ、ムダだぁぁ!」


 黙って陸海賊とアスナのやり取りを聞いていた、ナックラ・ビィビィが海賊の男に訊ねる。

「お主、少し言い過ぎではないか……だいたい、なぜ海賊が陸におるのじゃ?」

「海で海賊をやっていたら、賞金首になっちまって追われる立場になっちまってな……海から逃げてきた、陸なら海の法律や規則は適用されないからな」

「情けない海賊じゃ……海賊なら、さっさと川を下って海にも……!?」


 ナックラ・ビィビィの視線が海賊船の船体の一部を凝視する。

 そこにハメこまれ補修された板の表面には、見覚えがある筆体の文字があった。


「お主……その破損した箇所の補修に使った板を、どこから調達してきた」

「変な道標が立っていたから、引き抜いて使わせてもらった」

 陸海賊の言葉を聞いたナックラ・ビィビィの拳がワナワナと震える。

「ギャン! リャリャナンシー! 儂が許す、この陸に上がった海賊をこらしめてやれ!」


 腕組みをした、リャリャナンシーが言った。

「悪いが少し、個人的な事情があるので。陸海賊に制裁を与えるのは遠慮したい……その海賊は、アスナを殺した犯人ではないのでな」

「それなら、しかたがないのぅ……無理強いはせん」


 ナックラ・ヴィヴィは、三日月魔導杖の先をギャンに向けて言った。

「ギャン! お主の石頭を海賊船にぶちかませ!」

「オレもやりたくは……」

「お主に拒否権は無い! お主の本当の力は、まだ目覚めてはおらん……そのデカ頭で、海賊船に穴を開けろ!」


「なんだそれ! 不公平だ! 一つ目の綺麗なネーチャンだけ優遇されて……オレの本当の力? どういう意味だ?」

「えーいっ、ぐだぐだ面倒くさいヤツじゃ!」

 ナックラ・ビィビィは、魔導杖でギャンの足元をすくう。

 片腕を斜め下に向けて、反対側の足を上げて歌舞伎(かぶき)見得(みえ)を切っているようなポーズで、海賊船に向かってよろめく。

「おっとととととっ」

 よろめきながら、巨大化していく頭。


 そのまま勢いをつけて、海賊船の船体にギャンのデカ頭がぶち当たると。

 船体に穴が開き、傾いた海賊船の甲板から陸海賊の男が転がり堕ちてきた。

 駆け寄ったナックラ・ビィビィは、鬼神の形相で三日月魔導杖を振り上げて言った。


「よくもぅ、儂が丹精込めて作った道標を、海賊船の補修板に! お主のようなヤツに魔導力を使うのも、もったいない地獄の責めですら、お主には生温い! 叩き殺してくれる!」

 怒りに我を忘れたナックラ・ビィビィが、三日月型の魔導杖を陸海賊の頭目がけて、振り下ろした瞬間──木製のチェンソーの刃が杖の柄を受け止める。

「!?」

 ゼンマイ仕掛けの、木製チェンソーでナックラ・ビィビィが振り下ろした魔導杖を止めたのは、花嫁衣装姿のアスナ・ギーヴルだった。


 アスナが微笑みながら言った。

「この人を許してあげてください……明日、結婚式を挙げる。あたしの花婿ですから」

「お主の花婿?」


 怒りの魔導杖を収めたナックラ・ビィビィが、アスナと陸海賊の顔を交互に眺め、過去に体験した叡知からすべてを理解する。

「そういう、ことじゃったか……怒って悪かった」


 数分後──畑を耕しているアスナと耕しを手伝っている、リャリャナンシーを眺めながら、ナックラ・ビィビィは傍らに座り込んだ、陸海賊に話しかける。


「お主……同じ毎日を繰り返す、花嫁を見るのが辛かったのじゃな……明日になれば結婚できると信じておる、アスナを見るのが辛くて……あんな意地悪なコトを」

「やめさせようと思った……明日になっても挙式は行われない、また挙式前日がアスナには訪れるだけだ」


「やめさせて、どうするつもりじゃ……アスナにとっては、明日になれば結婚できるという喜びが生きている実感じゃ、それを奪ってどうする」

 陸海賊は、空を仰ぎ見てナックラ・ビィビィに訊ねた。


「西の大魔導師ナックラ・ビィビィ。教えてくれ、オレはこの先どうすればいい?」

「アスナが同じ毎日を繰り返しているのなら、お主も今日と同じコトをつき合ってやってやれ……強制的に止めさせるコトはしないでな」

「同じコトの繰り返しか……」

「同じではないぞ今日、儂らと出会ったであろう……何かしらの変化があれば、同じ毎日の繰り返しではない」


 ナックラ・ビィビィは三日月魔導杖の先で、斜めに傾いた海賊船を差して言った。

「道標だけは、元の場所に作り直しておけよ……案内表示の文字は儂が書く、お主はその道標を管理保護するのじゃ……この地を訪れる旅人たちのために」


 少し離れた場所で、巨頭化したまま、重い頭を下に転がったギャンが、ダジィたちからグラグラ揺らされながら。

「もしもーし、何かお忘れではありませんか……西の大魔導師さま」

 そう、哀願する声が聞こえてきた。

AIみたいな文章で指摘された問題点


【まずは、「普通に読める文章」を書けることを目指したほうがいい。今の文章では「普通に」は読めない。なお、ここでの「普通に読める」とは、「左から右へ視線を動かすことで文意をつかめる(横組みの場合)」あるいは「上から下へ視線を動かすことで文意をつかめる(縦組みの場合)」を意味する。今の書き方では、前後左右の文章を見比べながら「解読する」必要がある。


以下、気になった点をいくつか挙げてみた。



●『、』と『。』とを使い分けよう


『、』と『。』とをそれぞれ本来の意味で使おう。『、』は一般に文の途中にある切れ目を表すことが多い。『。』は一般に文の終わりを表すことに使われる。これらは小学校の国語の授業で習う内容のはずだ。多くの読み手はこれらのことを暗黙的に仮定している。しかし、本作の文章はこの暗黙的な仮定に基づいていない。『。』が置かれていても文が終わっておらず、次の文章に続いている、という箇所がいくつもある。これでは、「文が終わった」という感覚をリセットせざるを得ず、「この『。』は、実は文の終わりではなかった」と思い直して読み直す必要がある。結果として、目線が行ったり来たりを繰り返し、肝心の内容が頭に入らない。


対策としては、自分が書いた文章を声に出して読んでみる、というのがある。『、』は文の途中での一時停止であり、『。』は文の終わりである、ということを意識して読んでみると、文の不自然さに気づけるかもしれない。もし不自然さに気づけないのであれば……、そのときの対策はわからない。



●一文の途中で改行しないようにしよう


前項『●『、』と『。』とを使い分けよう』とも関連するが、『、』を意味する『。』を『、』に置き換えたら、『、』の直後の改行文字を削除しよう。通常の文では文の途中で改行しないことが多い。台詞が後に続く場合などを除き、改行は段落の切れ目を表す。一文の途中に段落の切れ目が来ることは不自然だ。一文が長いと感じたら、接続詞を挟むなどして適度に短い文に分割すればいい。一文の途中で改行するよりも読みやすくなるはずだ。



●段落を意識しよう


段落はだいたいにおいて一つの話題を表す。同じ話題が続く限り、段落は続く。小説においてもだいたいその傾向はあり、動作の主体が変わらないのであれば段落は変わらないことが多い。段落が変わるのは、話題が変わるときや動作の主体が変わるときなどだ。尤も、最近の小説ではそうとも言えない傾向にあるようではあるが。


段落に関しては、『悪文[第3版]』(日本評論社)に興味深い例が載っている。小学生の作文の授業の際に「段落を意識して書こう」と指摘したところ、指摘の前後で見違えるような変化が見られた、というのだ。書籍中には、例文として児童の作文が掲載されている。確かに、指摘前の文章はほとんど一文ごとに改行する箇条書きに近いものだったが、指摘後の文章では明らかに文章量が増加しており、読むだけでその場の情景を思い浮かべられるほどまでになっていた。


段落を意識するだけでそれだけ変わるのであれば、意識しないのはもったいない。文を単位として文章を構成するのではなく、段落を単位として文章を構成したほうが、よりよい文章を書く訓練になるかもしれない。



●主語、述語、目的語、修飾語、その他の語順を意識しよう


一文の中の語順を意識しよう。だいたいの文においては主語があって述語がある。おおよそ「誰それはどうした」のような形になる(倒置法もあるが、ここでは考慮しない)。文の中には目的語がある場合もある。おおよそ「誰それは何々をどうした」のような形になる。修飾語がある場合もある。おおよそ「これこれな誰それは何々をどうした」のような形になる。日本語の場合、修飾する語は修飾される語の前に来ることが多い。目的語は述語の前に来ることが多い。それぞれの語の関係をわかりやすくするためには『、』を適切に使用する必要があるが、本作の文章ではそれが崩れている箇所がいくつもある。そのため、そのたびに「この修飾語は、一体全体、どの語にかかるのか?」と考えざるを得ず、頭の中で文章を再構成する必要がある。こちらについても、対策としては声に出して読んでみるのが有効かもしれない。



●体言止めの使用はとりあえず封印しておこう


本作の文章には体言止めや「動詞の連用形+助動詞+『。』」のような形が見られる。体言止めを多用すると文章が一気に陳腐化する。極々少数であれば効果的かもしれないが、これでもかと多用されると読むのも辛くなる。後者についても体言止めと同様に、多用するとどうにも拙い文章のように見える。言い方は悪いが、「出来損ないの詩」のようにも見えてしまう。体言止めや「動詞の連用形+助動詞+『。』」の使用は却って文章を損なうものだと考えて、最後まで書き切るようにしたほうがいい。まずはきちんとした文章を書けることを目指すべきだ。



●物語世界にふさわしい語や言い回しを使おう


それぞれの作品世界に合う言葉を使おう。別世界を舞台にしたファンタジー作品の中で現代の流行語が出てきたとしたら、それだけで読む気が失せてしまう(「別世界のことを日本語で表現する」という根本的な問題については、ここでは考慮しない)。普段使用している言葉を登場させるにしても、少々古めの言葉に言い換えたほうが「それらしく」なることもあるし、漢語(熟語)については言い換えたほうがいい場合もある。


ある言葉を言い換えたいときには、例えば、『現代語古語類語辞典』(三省堂)のような辞典が役に立つ。なお、この辞典を使用する際は国語辞典と古語辞典の併用は必須と思ったほうがいい。



●説明するのではなく描写することを心掛けよう


説明と描写との間の線引きは難しいところもあるが、描写することを心掛けよう。「見た目が美少女」とは? どれほどの美しさ? 美しさの決め手は何? 一番目の文章の冒頭でその情報を提示する必要はあるのか? 単に人物名を提示するだけで事足りるのではないか? 書き手の頭の中には確固とした像があるのかもしれないが、文章の中からは読み取れない。読み手はそれぞれ勝手に「美少女」の姿を想像するより他にない。これでは単なる記号に過ぎないことになる。物語の進行上では「美しさ」は関係ないのかもしれないが、そうであればわざわざ「『美』少女」とする必要もないように思える。読み手の想像力に委ねるのであれば、単なる記号のほうがよいのかもしれないが。


加えて、「見た目」という語もあまりにも安直に思える。前項とも関連するが、もう少し別の言い回しにしたほうがいい(見目/顔立ち/容貌/容姿/姿/姿形/……、等々、他は類語辞典などを参照)。「ハイファンタジー」なのに、あまりに残念なことになっている。


また、文章の構造として、

  登場人物の動作の説明

  ↓

  その人物の台詞

という流れになっている箇所が多くある。これでは、読み進めるごとに手品の前に種明かしをされているような気分になる。あるいは、地の文をト書きと見立てて脚本のように読めなくもない。対策として、台詞の後に描写する、あるいは、描写→台詞→描写、など、いろいろと工夫したほうがいい。試しに、テキストエディタにコピーして台詞の部分を消去してみたところ、本当にト書きのように見えてしまった。説明ではなく描写していたとしたら、台詞を消去したとしても印象は異なっていたかもしれない。



●語と語との関係を意識しよう


ある語と別の語との繋がりを意識しよう。前述の『●主語、述語、目的語、修飾語、その他の語順を意識しよう』とも関連するが、ある語には「繋がりやすい語」と「繋がりにくい語」とがある。「繋がりにくい語」があると、そこで文章の流れが淀む。言い換えると、読んでいて引っかかる。引っかかりがあると、「この場所にふさわしい語は何か」と考え始める。場合によっては各種辞典で調べ始める。場合によってはそこで読むのを止める。


語と語との関係を確認したいのであれば、例えば、『てにをは辞典』(三省堂)のような辞典が役に立つ。この辞典には複数の作家の用例を基に、ある語と繋がりやすい語の例が示されている。他にも類語辞典がある。当然のことながら、国語辞典も役に立つ。書いている最中に語の選択に迷ったら、各種辞典を確認してもいいかもしれない】


★あ~ぁ、そうですか偉い偉い

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