√ 五・台地の村【リリー・パリゼット】アスナ・ギーヴルは死んで……①
ナックラ・ビィビィ一行は、リャリャナンシーの頼みで、巨大な台地に寄り道をしていた。
樹木が斜めに生える台地の側面にある、曲がりくねった断崖道を、荷物を担いだギャンは。
「ヒーッ、ヒーッ」言いながら一番最後から歩き登っていた。
先頭を歩くナックラ・ビィビィが、振り返ってギャンを見て言った。
「情けない……この程度の山道で、音を上げおって」
「こっちは荷物を担いでいるんだぞ、あんたたちみたいに軽装じゃないんだ……ヒーッヒーッ」
「しょうがないのぅ」
ナックラ・ビィビィはギャンの後方に、数体の身代わり泥人形ダジィを縦に並べて出現させた。
「ダジィ~ィ」
ダジィたちに荷物を押されて、ギャンは少し楽に登れるようになった。
ギャンが言った。
「最初から、こんな楽な方法があるなら使ってくれよ……どうせなら、ダジィたちに荷物を運ばせて、オレたちも楽して運んでもらえれば」
「楽をした旅ばかりしておると、人生と同じで人間成長せん……あと少し登ったら、平らで見晴がいい場所がある。そこで休憩と今夜の野宿準備じゃ。この【リリー・バリゼット台地】は一日では登りきれんからのぅ」
数体のダジィが、坂道を次々と転げ落ちて土の塊に変わり。
最後の一体が断崖から落下して砕けると、ナックラ・ビィビィ一行は見晴しがいい平らな場所に到着した。
小川が流れ、芝生のような植物が生えているキャンプや野宿をするには適した場所だった、実際に野宿をした者の焚き火の痕跡もある。
「あの大樹の枝に雨避けの布を張れば、夜露はしのげるじゃろう……ギャン、野宿の準備をせい」
「少し休ませろよ、ババァ」
ナックラ・ビィビィが、呪文を唱えるとギャンの頭がリングの大きさに合わせて、膨らみはじめギャンは悲鳴を発する。
「うわぁ! 野宿の準備をやります! やらせてください! だから、頭を縮めてぇ!」
ギャンが野宿準備を進めている間に崖のような縁に立ったナックラ・ビィビィは、眼下に広がる風景を眺める。
続く地平線、連なる山脈、流れる大河、村や町に繋がる街道。
「人の世は移り変わるものじゃな……開拓されて森はだいぶ減った、新たな村が誕生して、人は増えたがな」
振り返ったナックラ・ビィビィの目に、変顔をしてナックラ・ビィビィを小バカにしているギャンの姿が映る。
滝汗を流して、変顔のまま固まるギャン。
意地悪な笑みを浮かべるナックラ・ビィビィ。
「ほぅ、なんじゃ儂に向かってその変顔は……良いことを思いついた、その変顔を崩すでないぞ」
ナックラ・ビィビィは、手の甲に浮かび出た魔導生物に、魔導カードをスラッシュさせる。
どこからか飛んできた巨石が空中で、高速回転をして削れ。
ギャン・カナッハの変顔彫刻に変わり、見晴らし場に落下する。
変顔彫刻を見たリャリャナンシーが、腹を押さえて笑い転げる。
ヒクヒクと頬を痙攣させたギャンが、ナックラ・ビィビィに質問する。
「なんだ……この、巨石彫刻は」
「笑えるじゃろう、この場所まで汗だくで登ってきた旅人に、少しでも笑って旅の疲れを癒してもらおうと思ってな……後世まで残る笑い者じゃ、どうだ変顔が名所になって嬉しいじゃろう……みんな、お主を指差して笑い転げるぞ」
「あんたって人は……どこまで底意地が悪いんだ」
ギャンは今さらながら、とんでもない大魔導師に関わってしまったと思った。
夕暮れが迫る中、食事の終わったナックラ・ビィビィは、焚き火を眺めながらリャリャナンシーに質問する。
「お主の話しだと、このリリー・パリゼット台地の上にある、リリー・パリゼット村には幼馴染みで、婚礼の前夜に殺されたアスナという娘の墓があるそうじゃな」
「『アスナ・ギーヴル』の墓標ですね。ありますよ、次の日の結婚式を楽しみにしていたのに残念です……花嫁衣装のまま、埋葬されました」
小川の水で洗濯をしているギャンが、リャリャナンシーの細いヒモの下着を引っ張り眺めて、にやけているのを見た。
ナックラ・ビィビィが近くにあった柔石をギャンの頭に向かって投げつけ、ギャンはタンコブを作りながら洗濯を続けた。
ナックラ・ビィビィは、リャリャナンシーに言った。
「その、お主の幼馴染みの死因が首筋に残る牙痕か、下顎に牙を持つ吸血鬼か魔物かわからんが……一日も早く、犯人が見つかるといいのぅ」
リャリャナンシーが黙って、焚き火を木の棒で掻き回すと炎が少し勢いよく燃えた。
翌朝──野宿から、台地の上部に向かったナックラ・ビィビィ一行は、昼頃に【リリー・パリゼット村】に到着した。
最初に、村の墓地に立ち寄り。
アスナ・ギーヴルの墓標に花を添えて、祈りを捧げる。祈り終わり立ち上がったリャリャナンシーが言った。
「すまんが、もう少しだけ。わたしのワガママにつき合ってくれ……アスナ・ギーヴルの家に寄りたい」
リリー・パリゼット村の外れにある、アスナ・ギーヴルの家に行くと。
ちょうど、家の前にある巨大な車輪の轍だらけの畑を耕しに、家の中から出てきた。
血に染まった花嫁衣装を着た、顔色が悪い『アスナ・ギーヴル』が出てきた。
ゾンビ色の肌をしたアスナは、リャリャナンシーの姿を見て、親しそうに話しかけてきた。
「あっ、リャリャナンシー……久しぶり、明日のあたしの結婚式に来てくれたんだ」
リャリャナンシーが、首筋に牙痕が残るアスナに言った。
「結婚おめでとう……綺麗な花嫁さんだ」
ギャンが、リャリャナンシーの脇を軽くつついて、小声で訊ねる。
「どういうコトだ? 幼馴染みは、死んだんじゃないのか?」
畑を農具で耕しているアスナを眺めながら、リャリャナンシーが言った。
「アスナは死んでいる……埋葬された三日後に、墓から這い出してきて、自分が死んでいるコトに気づかす、結婚式前日の記憶を繰り返している……次の日になってもアスナにとっては、結婚式の前日だ」
ナックラ・ビィビィが呟く。
「牙の呪いとか、感染症の類いか……どちらにしても、これは酷い」
AIみたいな心のない文章で指摘された問題点
【まずは、「普通に読める文章」を書けることを目指したほうがいい。今の文章では「普通に」は読めない。なお、ここでの「普通に読める」とは、「左から右へ視線を動かすことで文意をつかめる(横組みの場合)」あるいは「上から下へ視線を動かすことで文意をつかめる(縦組みの場合)」を意味する。今の書き方では、前後左右の文章を見比べながら「解読する」必要がある。
以下、気になった点をいくつか挙げてみた。
●『、』と『。』とを使い分けよう
『、』と『。』とをそれぞれ本来の意味で使おう。『、』は一般に文の途中にある切れ目を表すことが多い。『。』は一般に文の終わりを表すことに使われる。これらは小学校の国語の授業で習う内容のはずだ。多くの読み手はこれらのことを暗黙的に仮定している。しかし、本作の文章はこの暗黙的な仮定に基づいていない。『。』が置かれていても文が終わっておらず、次の文章に続いている、という箇所がいくつもある。これでは、「文が終わった」という感覚をリセットせざるを得ず、「この『。』は、実は文の終わりではなかった」と思い直して読み直す必要がある。結果として、目線が行ったり来たりを繰り返し、肝心の内容が頭に入らない。
対策としては、自分が書いた文章を声に出して読んでみる、というのがある。『、』は文の途中での一時停止であり、『。』は文の終わりである、ということを意識して読んでみると、文の不自然さに気づけるかもしれない。もし不自然さに気づけないのであれば……、そのときの対策はわからない。
●一文の途中で改行しないようにしよう
前項『●『、』と『。』とを使い分けよう』とも関連するが、『、』を意味する『。』を『、』に置き換えたら、『、』の直後の改行文字を削除しよう。通常の文では文の途中で改行しないことが多い。台詞が後に続く場合などを除き、改行は段落の切れ目を表す。一文の途中に段落の切れ目が来ることは不自然だ。一文が長いと感じたら、接続詞を挟むなどして適度に短い文に分割すればいい。一文の途中で改行するよりも読みやすくなるはずだ。
●段落を意識しよう
段落はだいたいにおいて一つの話題を表す。同じ話題が続く限り、段落は続く。小説においてもだいたいその傾向はあり、動作の主体が変わらないのであれば段落は変わらないことが多い。段落が変わるのは、話題が変わるときや動作の主体が変わるときなどだ。尤も、最近の小説ではそうとも言えない傾向にあるようではあるが。
段落に関しては、『悪文[第3版]』(日本評論社)に興味深い例が載っている。小学生の作文の授業の際に「段落を意識して書こう」と指摘したところ、指摘の前後で見違えるような変化が見られた、というのだ。書籍中には、例文として児童の作文が掲載されている。確かに、指摘前の文章はほとんど一文ごとに改行する箇条書きに近いものだったが、指摘後の文章では明らかに文章量が増加しており、読むだけでその場の情景を思い浮かべられるほどまでになっていた。
段落を意識するだけでそれだけ変わるのであれば、意識しないのはもったいない。文を単位として文章を構成するのではなく、段落を単位として文章を構成したほうが、よりよい文章を書く訓練になるかもしれない。
●主語、述語、目的語、修飾語、その他の語順を意識しよう
一文の中の語順を意識しよう。だいたいの文においては主語があって述語がある。おおよそ「誰それはどうした」のような形になる(倒置法もあるが、ここでは考慮しない)。文の中には目的語がある場合もある。おおよそ「誰それは何々をどうした」のような形になる。修飾語がある場合もある。おおよそ「これこれな誰それは何々をどうした」のような形になる。日本語の場合、修飾する語は修飾される語の前に来ることが多い。目的語は述語の前に来ることが多い。それぞれの語の関係をわかりやすくするためには『、』を適切に使用する必要があるが、本作の文章ではそれが崩れている箇所がいくつもある。そのため、そのたびに「この修飾語は、一体全体、どの語にかかるのか?」と考えざるを得ず、頭の中で文章を再構成する必要がある。こちらについても、対策としては声に出して読んでみるのが有効かもしれない。
●体言止めの使用はとりあえず封印しておこう
本作の文章には体言止めや「動詞の連用形+助動詞+『。』」のような形が見られる。体言止めを多用すると文章が一気に陳腐化する。極々少数であれば効果的かもしれないが、これでもかと多用されると読むのも辛くなる。後者についても体言止めと同様に、多用するとどうにも拙い文章のように見える。言い方は悪いが、「出来損ないの詩」のようにも見えてしまう。体言止めや「動詞の連用形+助動詞+『。』」の使用は却って文章を損なうものだと考えて、最後まで書き切るようにしたほうがいい。まずはきちんとした文章を書けることを目指すべきだ。
●物語世界にふさわしい語や言い回しを使おう
それぞれの作品世界に合う言葉を使おう。別世界を舞台にしたファンタジー作品の中で現代の流行語が出てきたとしたら、それだけで読む気が失せてしまう(「別世界のことを日本語で表現する」という根本的な問題については、ここでは考慮しない)。普段使用している言葉を登場させるにしても、少々古めの言葉に言い換えたほうが「それらしく」なることもあるし、漢語(熟語)については言い換えたほうがいい場合もある。
ある言葉を言い換えたいときには、例えば、『現代語古語類語辞典』(三省堂)のような辞典が役に立つ。なお、この辞典を使用する際は国語辞典と古語辞典の併用は必須と思ったほうがいい。
●説明するのではなく描写することを心掛けよう
説明と描写との間の線引きは難しいところもあるが、描写することを心掛けよう。「見た目が美少女」とは? どれほどの美しさ? 美しさの決め手は何? 一番目の文章の冒頭でその情報を提示する必要はあるのか? 単に人物名を提示するだけで事足りるのではないか? 書き手の頭の中には確固とした像があるのかもしれないが、文章の中からは読み取れない。読み手はそれぞれ勝手に「美少女」の姿を想像するより他にない。これでは単なる記号に過ぎないことになる。物語の進行上では「美しさ」は関係ないのかもしれないが、そうであればわざわざ「『美』少女」とする必要もないように思える。読み手の想像力に委ねるのであれば、単なる記号のほうがよいのかもしれないが。
加えて、「見た目」という語もあまりにも安直に思える。前項とも関連するが、もう少し別の言い回しにしたほうがいい(見目/顔立ち/容貌/容姿/姿/姿形/……、等々、他は類語辞典などを参照)。「ハイファンタジー」なのに、あまりに残念なことになっている。
また、文章の構造として、
登場人物の動作の説明
↓
その人物の台詞
という流れになっている箇所が多くある。これでは、読み進めるごとに手品の前に種明かしをされているような気分になる。あるいは、地の文をト書きと見立てて脚本のように読めなくもない。対策として、台詞の後に描写する、あるいは、描写→台詞→描写、など、いろいろと工夫したほうがいい。試しに、テキストエディタにコピーして台詞の部分を消去してみたところ、本当にト書きのように見えてしまった。説明ではなく描写していたとしたら、台詞を消去したとしても印象は異なっていたかもしれない。
●語と語との関係を意識しよう
ある語と別の語との繋がりを意識しよう。前述の『●主語、述語、目的語、修飾語、その他の語順を意識しよう』とも関連するが、ある語には「繋がりやすい語」と「繋がりにくい語」とがある。「繋がりにくい語」があると、そこで文章の流れが淀む。言い換えると、読んでいて引っかかる。引っかかりがあると、「この場所にふさわしい語は何か」と考え始める。場合によっては各種辞典で調べ始める。場合によってはそこで読むのを止める。
語と語との関係を確認したいのであれば、例えば、『てにをは辞典』(三省堂)のような辞典が役に立つ。この辞典には複数の作家の用例を基に、ある語と繋がりやすい語の例が示されている。他にも類語辞典がある。当然のことながら、国語辞典も役に立つ。書いている最中に語の選択に迷ったら、各種辞典を確認してもいいかもしれない】
★もう書くのをやめろと言うのか!AIを使って感想書いたてめえは!




