√ 一・出発の町【メルヒ・ディック】
その日──西方の大魔導師、ナックラ・ビィビィは西方地域を統括する『西方王』に呼ばれて城を訪れていた。
現・西方王は、自分より年下の少女を見て言った。
「おぉ、偉大なる西方の大魔導師ナックラ・ビィビィ……お会いできて光栄です、先代と先々代の西方王……わたしの父と祖父から、旅のご活躍はかねがね聞いております」
歯車が覗く三日月型の魔導杖を持った、ナックラ・ビィビィが言った。
「ふん、あの時の赤子が成長して王になったか……おまえが生まれたばかりの時に、祝福で城を訪れた時から数えて会ったのは、これで二回目だな……で、儂に何の用だ?」
「西方地域の、新たな地図作りの旅をお願いしたいのです」
ナックラ・ビィビィが、三日月型の魔導杖をクルッと、大きく一回転させる。
「ほう、先々代の西方王に依頼されて、作った地図もだいぶ古い地図に変わってきたからのぅ……西方地域に新しい領国や小国が誕生したり、消滅したり……地形も魔導の争いや、局地的な戦いで変化しておる」
「道標でさえも、盗賊や山賊の手で変えられ……道に迷い命を落とす旅人も続出しています」
「よかろう……地図作りの旅の依頼引き受けよう、地図にも人生にも道標は必要じゃからのぅ」
西方王に背を向けて数歩進んだ、西方の大魔導師は何かを思い出したように立ち止まり西方王に言った。
「今回も長い旅になりそうじゃ……旅の炉銀と、依頼のそれなりに報酬を用意せい。無報酬でやるつもりは毛頭ないからのぅ」
◆◆◆◆◆◆
出発の町【メルヒ・ディック】のギルド食堂──ギルドの告知掲示板に、旅の仲間募集の張り紙を貼り終えたナックラ・ビィビィは、陣取って専用予約したテーブルの椅子に座り。
カシス〔クロスグリ〕果実の飲料を飲みながら、募集に応じる旅の仲間を待った。
「儂一人で、地図作りの旅をはじめても良いが……武力攻撃のボディガードも欲しいのぅ、さてさて、どんなヤツが現れるか楽しみじゃ」
◆◆◆◆◆◆
ナックラ・ビィビィが待つこと半日──一人の若い男が、ナックラ・ビィビィのいるテーブルの前にやって来て言った。
「あんたが、旅の仲間を探している。大魔導師のナックラ・ビィビィかい? なんだまだ、ガキじゃねぇか」
軽い雰囲気で、女に手を出すのが早そうな若い男は、外見が美少女のナックラ・ビィビィを見下す。
ナックラ・ビィビィが現れた男に質問する。
「お主、儂と一緒に旅をしたい目的はなんじゃ?」
「そんなの決まっているじゃねぇか……大魔導ナックラ・ビィビィと旅をしたと触れ回るだけで。一目置かれて金も女も思うがままだ……有名になりたいんだよ」
「名誉と虚栄心のためか。目的はなんであれ。旅の同行者として見合った実力があれば、儂は誰でも構わん」
ナックラ・ビィビィは、正方形の木箱を取り出してテーブルの上に置いた。
「お主が旅の仲間として相応しい運を持っているか、ちょっとしたテストをしてやろう」
木箱の上部には、片手が入るくらいの穴が開いている。
「この箱の中には毒ヘビが入っておる毒ヘビの機嫌が良い時は、何もしないが……機嫌が悪いと、毒ヘビは噛みついてくる──さぁ、手を入れて運試しをしろ……無事なら旅の同行者にしてやろう」
「ひっ、ふざけるな! そんな運試しで命を落としたら、わりに合わねぇ!」
青ざめた顔の男は、ギルドから慌てて逃げ出していった。
男の姿が見えなくなると、煮込んだソーセージ料理を口に運びながらナックラ・ビィビィが言った。
「ふんっ、臆病者が」
◆◆◆◆◆◆
その後、旅の同行を希望する者は現れなかった。一日が過ぎ、二日が過ぎ。
旅の同行者募集の貼り紙の、貼り出し期限最終日──残り一時間を切った。
(この町では集まらんな……別の町で再度の募集をしてみて、それでダメなら……淋しく一人旅かのぅ)
ナックラ・ビィビィが諦めかけていた、その時──話しかけてきた一人の女性がいた。
「旅の同行者募集の貼り紙を見たのだが……もう、同行者は決まってしまったか?」
目の辺りをグルッと一回り、後頭部まで取り囲む幅広の金属兜。
額の辺りから頭頂、後頭部まで繋がった金属板で、兜の形は⊥字型をしていた。
頭部を保護している⊥字型兜には、赤い光点があり前後左右に自在に動いている。
胸元は交差させた布で隠して、腰に剣を提げた女剣士だった。
奇妙な兜をかぶった女剣士が、剣の柄に手を添えて言った。
「剣の腕には自信がある頼む、まだ同行者の余裕があるなら。わたしを仲間に加えてくれ……この命に変えても貴殿を守る」
女剣士の腰には剣の他に、東方地域のニンジャが使う武具『クナイ』に鎖を取り付けたモノも下がっていた。
ナックラ・ビィビィが言った。
「お主、剣術以外に東方の忍術も修得しておるのか」
「少しだけ、剣と一緒に学んだ……旅の炉銀が尽きて困っている仲間に加えてくれ──この町では、わたしのような姿のよそ者は、気味悪がって誰も雇ってはくれぬ」
女剣士は背中から生えているコウモリの黒い羽を広げた、羽に数個の目が現れる。
女剣士の片方の太モモには、尾骨から生えている、先端がハート型をした悪魔の黒い尻尾が巻きついていた。
女剣士の容姿を見て、ナックラ・ビィビィが言った。
「単眼種族と悪魔種族のハーフ……ラブラド種か、お主は悪魔種の血の方が濃いようじゃのぅ」
「同行はダメか……わたしのような姿の種族では」
「容姿は関係ない……儂の旅の連れに相応しい運を持っているか、持っていないかだけじゃ」
ナックラ・ビィビィは、毒ヘビが入っている木箱を取り出してテーブルの上に置いた。
数日前の男にしたのと同じように、ラブラド種の女剣士に箱の中に手を入れてみるコトを強要する。
女剣士は、臆するコトなく。
「ここで命が尽きれば、わたしもそれだけの運を持ち合わせた者……」
そう言って、躊躇するコトなく木箱の穴に片手を入れる。
「これが毒ヘビか……ピクリとも動かん」
箱の中から女剣士が引っ張り出したのは一本の縄だった、ナックラ・ビィビィが言った。
「第一テストは合格じゃな。とりあえず、お主は旅の同行者としての内定を得た」
「まだ、何かテストがあるのか?」
「それは、また別の町でじゃ。儂の旅は危険を伴うのでな、それだけの覚悟を持った者でなければ務まらん……出発は明日の早朝じゃ、今宵はギルド宿の部屋を用意するので。しっかりと体を休ませるがよい」
椅子から立ち上がったナックラ・ビィビィが、女剣士に訊ねる。
「お主、名前は?」
「ラブラド1号」
「真の名前の方じゃ」
ラブラド種は、本当の名前を、あまり名乗りたがらない。
「ラブラドの仲間内からは『リャリャナンシー』と、呼ばれている」
「そうか、あらためて儂は、ナックラ・ビィビィ……よろしく頼む」
これが、後に長年に渡って一緒に旅をするコトとなる、盟友リャリャナンシーとナックラ・ビィビィの出会いだった。
AIみたいな文面で指摘された問題点
【まずは、「普通に読める文章」を書けることを目指したほうがいい。今の文章では「普通に」は読めない。なお、ここでの「普通に読める」とは、「左から右へ視線を動かすことで文意をつかめる(横組みの場合)」あるいは「上から下へ視線を動かすことで文意をつかめる(縦組みの場合)」を意味する。今の書き方では、前後左右の文章を見比べながら「解読する」必要がある。
以下、気になった点をいくつか挙げてみた。
●『、』と『。』とを使い分けよう
『、』と『。』とをそれぞれ本来の意味で使おう。『、』は一般に文の途中にある切れ目を表すことが多い。『。』は一般に文の終わりを表すことに使われる。これらは小学校の国語の授業で習う内容のはずだ。多くの読み手はこれらのことを暗黙的に仮定している。しかし、本作の文章はこの暗黙的な仮定に基づいていない。『。』が置かれていても文が終わっておらず、次の文章に続いている、という箇所がいくつもある。これでは、「文が終わった」という感覚をリセットせざるを得ず、「この『。』は、実は文の終わりではなかった」と思い直して読み直す必要がある。結果として、目線が行ったり来たりを繰り返し、肝心の内容が頭に入らない。
対策としては、自分が書いた文章を声に出して読んでみる、というのがある。『、』は文の途中での一時停止であり、『。』は文の終わりである、ということを意識して読んでみると、文の不自然さに気づけるかもしれない。もし不自然さに気づけないのであれば……、そのときの対策はわからない。
●一文の途中で改行しないようにしよう
前項『●『、』と『。』とを使い分けよう』とも関連するが、『、』を意味する『。』を『、』に置き換えたら、『、』の直後の改行文字を削除しよう。通常の文では文の途中で改行しないことが多い。台詞が後に続く場合などを除き、改行は段落の切れ目を表す。一文の途中に段落の切れ目が来ることは不自然だ。一文が長いと感じたら、接続詞を挟むなどして適度に短い文に分割すればいい。一文の途中で改行するよりも読みやすくなるはずだ。
●段落を意識しよう
段落はだいたいにおいて一つの話題を表す。同じ話題が続く限り、段落は続く。小説においてもだいたいその傾向はあり、動作の主体が変わらないのであれば段落は変わらないことが多い。段落が変わるのは、話題が変わるときや動作の主体が変わるときなどだ。尤も、最近の小説ではそうとも言えない傾向にあるようではあるが。
段落に関しては、『悪文[第3版]』(日本評論社)に興味深い例が載っている。小学生の作文の授業の際に「段落を意識して書こう」と指摘したところ、指摘の前後で見違えるような変化が見られた、というのだ。書籍中には、例文として児童の作文が掲載されている。確かに、指摘前の文章はほとんど一文ごとに改行する箇条書きに近いものだったが、指摘後の文章では明らかに文章量が増加しており、読むだけでその場の情景を思い浮かべられるほどまでになっていた。
段落を意識するだけでそれだけ変わるのであれば、意識しないのはもったいない。文を単位として文章を構成するのではなく、段落を単位として文章を構成したほうが、よりよい文章を書く訓練になるかもしれない。
●主語、述語、目的語、修飾語、その他の語順を意識しよう
一文の中の語順を意識しよう。だいたいの文においては主語があって述語がある。おおよそ「誰それはどうした」のような形になる(倒置法もあるが、ここでは考慮しない)。文の中には目的語がある場合もある。おおよそ「誰それは何々をどうした」のような形になる。修飾語がある場合もある。おおよそ「これこれな誰それは何々をどうした」のような形になる。日本語の場合、修飾する語は修飾される語の前に来ることが多い。目的語は述語の前に来ることが多い。それぞれの語の関係をわかりやすくするためには『、』を適切に使用する必要があるが、本作の文章ではそれが崩れている箇所がいくつもある。そのため、そのたびに「この修飾語は、一体全体、どの語にかかるのか?」と考えざるを得ず、頭の中で文章を再構成する必要がある。こちらについても、対策としては声に出して読んでみるのが有効かもしれない。
●体言止めの使用はとりあえず封印しておこう
本作の文章には体言止めや「動詞の連用形+助動詞+『。』」のような形が見られる。体言止めを多用すると文章が一気に陳腐化する。極々少数であれば効果的かもしれないが、これでもかと多用されると読むのも辛くなる。後者についても体言止めと同様に、多用するとどうにも拙い文章のように見える。言い方は悪いが、「出来損ないの詩」のようにも見えてしまう。体言止めや「動詞の連用形+助動詞+『。』」の使用は却って文章を損なうものだと考えて、最後まで書き切るようにしたほうがいい。まずはきちんとした文章を書けることを目指すべきだ。
A・●物語世界にふさわしい語や言い回しを使おう
それぞれの作品世界に合う言葉を使おう。別世界を舞台にしたファンタジー作品の中で現代の流行語が出てきたとしたら、それだけで読む気が失せてしまう(「別世界のことを日本語で表現する」という根本的な問題については、ここでは考慮しない)。普段使用している言葉を登場させるにしても、少々古めの言葉に言い換えたほうが「それらしく」なることもあるし、漢語(熟語)については言い換えたほうがいい場合もある。
ある言葉を言い換えたいときには、例えば、『現代語古語類語辞典』(三省堂)のような辞典が役に立つ。なお、この辞典を使用する際は国語辞典と古語辞典の併用は必須と思ったほうがいい。
●説明するのではなく描写することを心掛けよう
説明と描写との間の線引きは難しいところもあるが、描写することを心掛けよう。「見た目が美少女」とは? どれほどの美しさ? 美しさの決め手は何? 一番目の文章の冒頭でその情報を提示する必要はあるのか? 単に人物名を提示するだけで事足りるのではないか? 書き手の頭の中には確固とした像があるのかもしれないが、文章の中からは読み取れない。読み手はそれぞれ勝手に「美少女」の姿を想像するより他にない。これでは単なる記号に過ぎないことになる。物語の進行上では「美しさ」は関係ないのかもしれないが、そうであればわざわざ「『美』少女」とする必要もないように思える。読み手の想像力に委ねるのであれば、単なる記号のほうがよいのかもしれないが。
加えて、「見た目」という語もあまりにも安直に思える。前項とも関連するが、もう少し別の言い回しにしたほうがいい(見目/顔立ち/容貌/容姿/姿/姿形/……、等々、他は類語辞典などを参照)。「ハイファンタジー」なのに、あまりに残念なことになっている。
また、文章の構造として、
登場人物の動作の説明
↓
その人物の台詞
という流れになっている箇所が多くある。これでは、読み進めるごとに手品の前に種明かしをされているような気分になる。あるいは、地の文をト書きと見立てて脚本のように読めなくもない。対策として、台詞の後に描写する、あるいは、描写→台詞→描写、など、いろいろと工夫したほうがいい。試しに、テキストエディタにコピーして台詞の部分を消去してみたところ、本当にト書きのように見えてしまった。説明ではなく描写していたとしたら、台詞を消去したとしても印象は異なっていたかもしれない。
●語と語との関係を意識しよう
ある語と別の語との繋がりを意識しよう。前述の『●主語、述語、目的語、修飾語、その他の語順を意識しよう』とも関連するが、ある語には「繋がりやすい語」と「繋がりにくい語」とがある。「繋がりにくい語」があると、そこで文章の流れが淀む。言い換えると、読んでいて引っかかる。引っかかりがあると、「この場所にふさわしい語は何か」と考え始める。場合によっては各種辞典で調べ始める。場合によってはそこで読むのを止める。
語と語との関係を確認したいのであれば、例えば、『てにをは辞典』(三省堂)のような辞典が役に立つ。この辞典には複数の作家の用例を基に、ある語と繋がりやすい語の例が示されている。他にも類語辞典がある。当然のことながら、国語辞典も役に立つ。書いている最中に語の選択に迷ったら、各種辞典を確認してもいいかもしれない】
★それでもと思い、悔しかったので図書館で作文の本を数冊借りてきて勉強し直ししました。
A●の指摘は、ワザと読者に分かりやすいように、現代と交流がある異世界の設定にしてあるのですが?説明不足だったようです。
AIの『作品世界に合う言葉を使おう。別世界を舞台にしたファンタジー作品の中で現代の流行語が出てきたとしたら、それだけで読む気が失せてしまう』等に関しては、世界観がこちらの世界と交流がある異世界設定なので「異世界だから、どうしても異世界っぽい言い回しにしろ!」と言うのは、あなた(AIの)固定観念では?




