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十六・パーティー最後の老勇者と『ナックラ・ビィビィ』ラスト

 とある田舎町の宿泊所を兼ねたギルド食堂で、固いパンを草食ドラゴンのポタージュスープに浸して。

 クエストパーティーの仲間と食事をしていた。

 西方地域の大魔導師『ナックラ・ヴィヴィ』の耳に、他の席で食事をしているトレンジャーハンターたちの会話が、それとなく聞こえてきた。


「この町にいる、以前『長命長寿の果実』を探して持ち帰るクエストに挑んだ、パーティーの勇者が老衰で今日明日の命だそうだ」

「何十年年も前にあの、大魔導師と旅をしたパーティーの勇者だろう……他の仲間は?」

「彼がパーティー最後の、生き残ったメンバーらしい」

「一緒に旅をした、大魔導師はどうなった? 当時は十代後半の美少女だったと聞いたぞ」

「さあな、生きていたとしてもシワクチャのババァになっているんじゃないのか……魔導師は魔導術の影響を受けやすくて、老けるのが早いって言うから。

もう死んじまっているかも知れねぇな」

「一度、美少女の大魔導師──『ナックラ・ビィビィ』に会ってみたかったな」


 食事の終わった、黒っぽい服装をした十代少女のナックラ・ビィビィは、三日月の内部が露出した部分に歯車が見える。

 魔導の三日月杖を持って椅子から立ち上がると、食事が終わったパーティー仲間に言った。

「少し出掛けてくる……夕刻までには、もどってくる」


 ◆◆◆◆◆◆


 十数分後──ナックラ・ビィビィは、町中の通りにある集合住宅の前にいた。

「ここか」

 建物の中に入ったナックラ・ビィビィは階段を上がり、町の人から聞いた住所の部屋のドアをノックした。

 部屋の中から老いた男性の「どうぞ、お入りください鍵はかかっていません」の声が聞こえ、ナックラ・ビィビィはドアを開けて部屋に入る。

 奥の部屋のベットに寝ていた老人が、驚いた顔でナックラ・ビィビィを見た。

「おぉぉ……」

 涙で両目を濡らした、老勇者がベットから起き上がろうとするのを止める、ナックラ・ビィビィ。

 ベットに近づいた大魔導師が昔の仲間に言った。

「ムリして起き上がらなくてもよいぞ……臨終間近の体力は温存しておけ」


 ベット脇の木製椅子に座り、三日月魔導杖を窓際に立て掛けた、ナックラ・ビィビィは老いた勇者の顔を眺める。

 涙目の老勇者も、ナックラ・ビィビィの顔を眺める。

 壁には勇者の剣や、装具が飾られ。額に入った絵には若い勇者グループと一緒に、まったく容姿が変わらないナックラ・ビィビィが描かれていた。

 老勇者が言った。

「ナックラ・ビィビィさまは、まったく変わりませんね」

「おまえは、ずいぶんとジジイになったな……旅をした時は、青年だったが」

 老勇者は懐かしそうに、額の中に描かれた絵に目を向けて言った。

「あの時のパーティーの仲間もわたしと、ナックラ・ビィビィさまを除いて全員亡くなってしまいました……わたしも、もうすぐ仲間のところに向かいます」

 ナックラ・ビィビィは一言。

「そうか」と、だけ言った。


 老勇者がナックラ・ビィビィに訊ねる。

「『長命長寿の果実』はどうなりました? パーティー解散後に入手できましたか?」

「あぁ、洞窟の奥に生えていた……果実探索の依頼主は、間に合わなくて亡くなっていたがな……果実は(わし)が食べた、長命長寿の果実を食べたのは二個目だ」

「そうでしたか」


 老勇者の表情が弱々しい表情に変わる、老勇者の命の灯火が尽きようとしていた。

 老勇者がナックラ・ビィビィに言った。

「ナックラ・ビィビィさま、手を握ってください……そろそろ、お迎えが来たようです」

 老勇者の枯れ木のような手を握った、美少女魔導師が言った。

「向こうには、旅の仲間が待っている──何も心配するな、昔の仲間とまた冒険の旅をすればいい……儂はまだ向こうの世界には行くコトはできんが」

「はい、最後にナックラ・ビィビィさまにお会いできて良かっ……た」


 老勇者の手から力が抜けて、老勇者は安らいだ表情で目を閉じた。

「逝ったか……新たな冒険の旅に」

 老勇者の手に勇者剣を握らせ胸の上に置いた、ナックラ・ビィビィは静かに建物を出た。

 通りには元気に駆けていく子供たちの姿があった。

 ナックラ・ビィビィは、少し日が山に沈みはじめた空を眺め呟く。

「儂はいったい、いつまで生き続けるのかのぅ」

 少しだけ涙ぐんだ目を拭ったナックラ・ビィビィは、今のパーティー仲間が待つ、ギルド食堂へと足を向けた。


パーティー最後の老勇者と『ナックラ・ビィビィ』~おわり~

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