3話 お弁当は100%植物です
冒険者さんの全身を覆う茶色の外套には、破れこそないが泥がまだらに染みつき、あちこちに繕いの跡があった。長い旅の相棒なのだろう。
「いらっしゃいませ!」
ネリはいつも通り笑顔でお客さんを迎えた。
相手が誰でも、笑顔で迎えるのがネリの決めごとだ。
でもマルタさんは少し警戒しているみたい。
冒険者さんが来るのは久しぶりだ。前に来た人が「もっと安くしろ!」と怒鳴ったことがあって、それ以来マルタさんは“おすそ分け”と称して見張りに来てくれている。
「表に弁当屋だって書いてあったけど、肉系の弁当は置いているか?」
腰のポーチは擦れて光沢を帯び、剣の鞘には細かい傷が走っている。
その装備ぶりから壮年の冒険者かと思ったけれど、声は意外にも若かった。
きょろきょろと店内を見回す冒険者さんはどうやらお肉のお弁当を探しているようだ。
「うちのお弁当は100%植物でできてるんです、でもお肉に負けないくらい栄養満点で美味しいですよ」
うーむ…となにやら気になることがあるのかうなる冒険者さん。
そこにマルタさんが畳みかける。
「そうさ、ネリちゃんのお弁当は全部お野菜なのにお肉やお魚の味がするんだ。私が買ってやるから一口食べなさい。ネリちゃんが栄養も考えて作ってくれてるのよ、体に良いしとっても美味しいの。」
マルタさんは持っていたサンドイッチの袋と1食分のお弁当代をカウンターに置き、お弁当を一箱つかむと冒険者さんにずいっと押し付けた。
ニコニコしているがどこか凄味がある。
「い、いや…お代は払うから…」
「いいからいいから、ほら、ここに座って」
冒険者さんの話を無視したマルタさんは、頭一つ分も背の高い冒険者さんの肩をグイグイと押して、店内のベンチに座らせた。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
膝にお弁当を載せた冒険者さんが、フードを取った。
ネリはドキリとした。
外ハネ気味くすんだブロンドの髪、暗い青色の瞳、すっと通った鼻筋。
そばかすの浮いた肌は、もとはきっと透き通るように白いのだろう。
冒険者というより、絵本の中の王子様みたい——。
「まぁ!色男じゃないの!あんた名前は?」
顔を見た途端マルタさんの表情は綻び、冒険者さんの肩をバシバシと叩いている。
「リュートです」
マルタさんを見上げたリュートさんは王子様のようなさわやかな笑顔で名前を名乗った。
開けたお弁当箱から店内へ、サーモンフラワーの良い香りが広がる。
リュートは塩焼きを一口食べると、箸を止め少し息を吐いた。
「……これ、すごいな」
ぼそりとつぶやくと、今度は大きな一口でおにぎりをほおばる。
「お口に合いました?」ネリが首を傾げる。
「うん。腹減ってて肉が欲しかったはずなのに……これで十分だ。いや、それ以上かも。すごくおいしいよ。」
ネリは一瞬ぽかんとした。
顔を上げたリュートのまっすぐな視線と褒め言葉に、なんだか照れる。
「ほ…ほら、空腹は最高のスパイスって言うでしょう?」
「じゃあ俺、毎日腹減らしてここにくる。君の飯がうまい証拠だ。」
淡々とした声。けれど、その目はやわらかく笑っていた。
マルタが笑って肩をすくめる。
「まったく、あんた口がうまいねぇ。惚れちゃう人いるよ」
「はは、ただの食いしん坊ですって」
リュートは照れ隠しのように笑いながら、もう一口運んだ。
リュートのまっすぐな誉め言葉にネリはそれ以上何も言えなくなっていた。
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