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魔法のお弁当屋さん  作者: 犬山ハチ子
ようこそ、魔法のお弁当屋さんへ

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2話 サーモンフラワーの塩焼き弁当

店内はこぢんまりとした広さで、カウンターにはお弁当を並べるスペースとお会計台がある。

入口を入って右にはちょっと腰かけられるベンチ、左には小さな丸テーブルと籠を置いている。


籠の中はまだ空っぽ。

ネリはお客さんが来るまでの間、クッキーを焼くのだ。


庭ではハーブとスパイスも育てている。


「ハーブは使わないと、わさわさに育っちゃうわね」


比較的柔らかい若い目を摘み、調理台で刻む。

スパイスは乾燥させたものを戸棚の瓶から一つまみ、すり鉢に入れてゴリゴリと粉になるまですりつぶす。

小麦粉、セサミオイル、お砂糖、刻んだハーブにスパイスをボウルにいれて木べらで混ぜる。

粉っぽくなくなったら、打ち粉をした調理台の上で広げて一口サイズに切ったら、オーブンにいれて砂時計3回分。


焼き上がりを待っている間に最近買ったお料理魔法の本を読みながら、お弁当に入れられない、少し焦げたりほぐれてしまったサーモンフラワーの塩焼きを入れたおにぎりをほおばる。

ほっと一息つくこの時間はネリのお気に入り。

塩が効いたサーモンフラワーは脂がよく乗っている。


カウンター用の高い椅子の上で脚をぶらぶらさせながら、舌に残る脂の甘さを名残惜しみ、本の中の料理の味に想像を巡らせていると、入り口の鈴が鳴った。


「よぉ!ネリちゃん!お届け物とお弁当を買いに来たよ」


今日の一番目のお客さんは、市場で荷運びをしてる、ガンクさんだ。

日焼けした小麦色の肌にムキムキの両腕。つるりとしたスキンヘッドにニッコリ笑顔が特徴のおじさんだ。

週に1回、お庭では採れないお米や小麦粉、お砂糖、お塩なんかを市場で仕入れて、届けてもらう。


「ガンクさん、こんにちは!ありがとうございます。荷物は重いし、市場からお店までは距離があるのでいつも助かります!」


「いいんだよ!ネリちゃんのお弁当の為ならいくらでも運ぶぜ。いつもの食品庫でいいのか?」


「はい、お願いします」


ネリはカウンター横の跳ね上げ扉を上げて、ガンクを食品庫に案内する。

食品庫はお店と調理場をつなぐ通路にある。

扉を開けると棚の一番下の段に並べてもらう。


「助かりました、じゃあ荷物のお代と今日のお弁当です」


「んん~、いいにおいがするな!珍しい、今日は魚を使ってるのか?」


「いいえ!今日も植物ですよ~、サーモンフラワーっていうお花の塩焼きで、ちゃんと鮭の味がしますよ」


「いつもすごいな!はいこれお弁当代な、ごちそうさん」


「はい!ありがとうございました~。またお願いします」


ニコニコ笑顔でガンクさんを見送ると入れ違いで近所に住むマルタさんが入ってきた。


「いらっしゃいませ、マルタさん」


「どうもネリちゃん。お弁当買いにきたわよ、今日は何かしら?」


はずむ声で元気いっぱいのお母さんだ。


幼い頃から、母のいないネリに何かと世話を焼いてくれるご近所さんだ。

特に祖母が亡くなってからは毎日こうしてお弁当を買いにきてくれる。


「今日はサーモンフラワーの塩焼きです!お魚の味のするお花で作りました」


「それは美味しそうだね、旦那の分と2つもらうよ」


ネリはぱっと笑って、両手を合わせた。


「ありがとうございます!焼きたてのクッキーもどうぞ、いつも買いにきてくれるのでこれはサービスです」


「いつも悪いわね、あとでお裾分け持ってくるわ」


マルタさんは旦那さんと二人でパン屋さんを営んでいる。

芽吹き亭でたまに売っているサンドイッチもマルタさんのお店のパンを使っているのだ。


「こちらこそ、いつもありがとうございます!またお願いします!」


その後も続々とお弁当を買いにお客さんが来る。

芽吹き亭のお客さんのほとんどは、顔なじみだ。ご近所さんか、近くで働く人たちばかり。

リスの郵便屋さんに、熊の木こりさん、ハリネズミのお母さんは子供たちがいっぱいいるのでお弁当の数もたくさん買っていく。




お弁当が半分ほど売れたころ、まだお日様は昇っている最中だった。

芽吹き亭は開店したころとお日様が折り返すころにお客さんが増える。


ネリは、ほぅっと一息ついた。


しばらくしないうちにマルタさんがまた来てくれて、今日は長いパンを3斤もくれたので、残っていたサーモンフラワーの塩焼きとハーブでサンドイッチを作った。


パンをもらったお礼に、マルタさんのお店に置いてもらう分としてサンドイッチをいくつか包んでいたところ、見慣れないお客さんがやってきた。



スラっと背の高い、腰に剣を履いた男の人。

茶色い厚手の外套を羽織り、フードをかぶっていたので顔はよく見えなかった。

お読みいただきありがとうございました。

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