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如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第一章 ヒーローにはヒロインが付き物

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9/15

高熱の彼女

 緊急事態が発生した。

 かなりまずい状況だ。


「おい……佐々木さん、しっかりしろ、しっかりしろ!」

「大丈夫だってばぁ……えへへぇ」

「バカか、こんなに熱を出して、大丈夫なわけないだろうに」


 最初、富勇は急に地面に崩れ落ちた涼香を介抱した際、彼女の額の熱さに気づき、こんなに熱を出すはずがない、と思わず手を引っこめたが、二度目、三度目と彼女の額を触るたび、それがカイロのように熱かったことを認めると、少しのあいだ我を取り乱した。


 ダメ押しとばかり、大雨もザアザアと降り出す始末。

 命の危険とは思わないが、それでも最悪な事態なのは明白だった。


 あともう少し、本当にあともう少しで、臨月エリアなのだ、と富勇は何度も自分に言い聞かせたが、そのあともう少しがどれくらいなのか、彼には分からなかった。


「あともう少しなんだ……あともう少し歩けば、臨月エリア、に……あぁ、そうか」


 あくまでも臨月エリアは中継地点に過ぎない。

 自分たちが向かいたいのは、臨月エリアより先にある皐月エリアであって。


 律子とやらから自転車を借りられたとしても、いつやむかも分からない大雨も降り出してきて……それに涼香もこのような状態では、とても自転車をこぐのは無理であるし、今夜中に皐月エリアに到着するのも、もちろんのこと。


 というわけで、富勇と涼香は絶望の淵に立たされた。


「絶望の淵……? ――そんなこと、ないだろうが」


 富勇は不眠不休の重たい身体に涼香を背負うと、ゆっくり歩き出した。

 すでに涼香は言葉を発する元気もないらしく、荒々しい呼吸を繰り返していた。


 一歩、一歩――確実に一歩を踏み出す。

 臨月エリアに向かうため、涼香を背負いながら、富勇は歩いた。


 あともう少し。

 歩く。

 もう少し、もう少し。

 歩く、歩く。

 もう少し。


 あと少し……で、臨月エリアなのに、身体が言うことをきかない。


 ……ごめんな、佐々木さん。

 …………。


 疲労と睡魔に勝てず、富勇は涼香を背負ったまま、とうとう野原の地面に倒れた。

 あまりにも熱すぎた涼香の肌が富勇から離れるのを感じていたが、ついに彼は起き上がることはなかった。


 そのまま、目を閉じて楽になる。

 楽に……なる。

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