高熱の彼女
緊急事態が発生した。
かなりまずい状況だ。
「おい……佐々木さん、しっかりしろ、しっかりしろ!」
「大丈夫だってばぁ……えへへぇ」
「バカか、こんなに熱を出して、大丈夫なわけないだろうに」
最初、富勇は急に地面に崩れ落ちた涼香を介抱した際、彼女の額の熱さに気づき、こんなに熱を出すはずがない、と思わず手を引っこめたが、二度目、三度目と彼女の額を触るたび、それがカイロのように熱かったことを認めると、少しのあいだ我を取り乱した。
ダメ押しとばかり、大雨もザアザアと降り出す始末。
命の危険とは思わないが、それでも最悪な事態なのは明白だった。
あともう少し、本当にあともう少しで、臨月エリアなのだ、と富勇は何度も自分に言い聞かせたが、そのあともう少しがどれくらいなのか、彼には分からなかった。
「あともう少しなんだ……あともう少し歩けば、臨月エリア、に……あぁ、そうか」
あくまでも臨月エリアは中継地点に過ぎない。
自分たちが向かいたいのは、臨月エリアより先にある皐月エリアであって。
律子とやらから自転車を借りられたとしても、いつやむかも分からない大雨も降り出してきて……それに涼香もこのような状態では、とても自転車をこぐのは無理であるし、今夜中に皐月エリアに到着するのも、もちろんのこと。
というわけで、富勇と涼香は絶望の淵に立たされた。
「絶望の淵……? ――そんなこと、ないだろうが」
富勇は不眠不休の重たい身体に涼香を背負うと、ゆっくり歩き出した。
すでに涼香は言葉を発する元気もないらしく、荒々しい呼吸を繰り返していた。
一歩、一歩――確実に一歩を踏み出す。
臨月エリアに向かうため、涼香を背負いながら、富勇は歩いた。
あともう少し。
歩く。
もう少し、もう少し。
歩く、歩く。
もう少し。
あと少し……で、臨月エリアなのに、身体が言うことをきかない。
……ごめんな、佐々木さん。
…………。
疲労と睡魔に勝てず、富勇は涼香を背負ったまま、とうとう野原の地面に倒れた。
あまりにも熱すぎた涼香の肌が富勇から離れるのを感じていたが、ついに彼は起き上がることはなかった。
そのまま、目を閉じて楽になる。
楽に……なる。




