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如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第一章 ヒーローにはヒロインが付き物
7/8

ラブホテルでの作戦会議

「ううん……あ、れ?」

「お目覚めかい、お姫様」


 ガバッと起き上がる涼香を見て、落ち着き払った様子で富勇は彼女に声をかけた。

 さすがの涼香も寝起きのためか、最初は不安そうにしていたが、すぐに状況を思い出したらしい。


「昨日は楽しかったよ~? もう、きみったらあたしを激しく揺らすんだからっ。きみに言われたとおり、あたしね、ちゃんと声を出さずに我慢したんだ、偉いでしょ~? おかげで、たくさん濡れちゃった」


「……まだ寝ていたほうがいいんじゃないか? かなり疲れてると見た」

「あはっ、冗談だよ?」

「……だがなぜだろう、あんたの言葉に整合性が取れているのは」

「じゃあ、やっぱりそうなんだよ~」

「ああ、やっぱそうだったな」


 富勇と涼香の二人は声をそろえて笑った。


「っと。――おい、あんたは何飲む?」

「カクテル~」

「……オーケー、オレンジジュースだな」

「カクテルー!」

「ははっ、またまたご冗談を」

「ほんとだよ? 朝カクテルは心地いいよ~」

「朝から酔ってる場合じゃないだろうがよ」

「うん……ごめんなさい」


 シュンとする涼香を見て、富勇の心は揺れ動いた。


 彼女の言動、それはどこからどこまでが計算済みなのだろうか。

 さすがは夜の街の人間だと、不覚にも富勇は思った。


「わ、分かった、分かったから。とりあえず何が飲みたいか、言ってみろ」

「レッドアイが欲しいな」

「レッドアイだな、任せてくれ」

「きみは?」

「……オレンジジュースをもらおうかな」

「子ども~」


 ケラケラと笑い出す涼香。


「まさか、もう酔ってるのか?」

「うん、勇敢なきみに心酔してるの」

「…………」


 富勇はホテルの備品の飲料製造機でレッドアイとオレンジジュースを作っているあいだ、できるだけ心を無にすることにした。

 そのあいだも涼香は何やら富勇に話しかけていたが、それすらも富勇は聞こえない振りをする。


 やがて、涼香の声がやんだ。

 富勇にとっては、気まずい沈黙が流れる。


「――ほい、レッドアイだ」

「ありがとう~。……あれ? きみのは何?」

「あぁ、俺のはな……オレンジジュースっていう、お子様の飲み物だ」

「やだぁ、もう~。あれほど豆乳にしなよ、って言ったのに」


 そんなことを言っていたのか、あのとき。


 たまらず富勇は戦慄した。


 それからすぐに、夢鏡で身だしなみを整えた富勇たちは、それぞれのドリンクを飲みながら、今日の作戦会議を行った。


「さて、どうやって今いる場所からあんたの勤めているキャバクラ店まで行く? ……皐月エリアまでは、徒歩で半日はかかるぜ」

「また如月親衛隊の空気自動車を奪うとか?」


 真面目に考えろ、と富勇は言いかけたが、考えをあらためた。


「それは……確かに妙案、だが、果たして俺たちはそれで無事に夜を迎えることができるのだろうか?」

「うーん、どうなんだろう?」

「第一、同じ手は奴らには効かないだろうな」

「かもだね」


 残念そうにため息をつく涼香を見て、富勇は思った。


 というか聞きたいんだけど、あんた、どうやって親衛隊の車を奪ったんだ?


 たぶん彼女の答えは「色仕掛けだよ~」だろうな、と富勇は苦笑いしたくなった。


「……プランAは取りやめだ。次、プランB」

「じゃあ徒歩で行くとかは?」


 富勇はオレンジジュースをこぼしながら、ずっこけた。


「あんたは今まで俺の何を聞いていた? さっき俺は徒歩では無理だ、って暗に言ったんだぞ」

「無理かぁ。なら……あっ!」

「ちなみに、サイダーナイフの泡移動は勘弁してくれよ。あれ、実は欠陥技なんだ」

「プランCもダメダメだね。だったら、ヒッチハイクはどう?」

「プランDは他人を巻きこむから、それもダメダメだな」

「じゃあ、プランE!」

「どうぞどうぞ」


「自転車って、知ってる?」


 富勇は目を丸くした。


「自転車? それは……昔に存在した、あの危険な乗り物のことか?」

「そうだよ」

「だが、そんな骨董品、今は誰も所有してないだろうに」

「そう思うでしょ? でもね、持っている人、一人知っているんだ」

「……嘘だろ。どこにある、その自転車は? 金はもうないが、強奪するくらいならできるぞ」


 一体どこの骨董品屋だ、と富勇は食いついた。


 すると、涼香は彼をなだめた。


「ダメだよ、そんなことしちゃ。かわいそうだよ、彼女が……律子りつこちゃんが」

「律子、ちゃん……? 友達か?」

「そうだよ~。大宮律子おおみや・りつこちゃんは、あたしの友達なのだ」


 うふっ、とにこやかに笑う涼香。


「律子ちゃんはね、両親が経営するそば屋「大味谷」の一人娘なんだよ。

 ――あっ、ちなみに律子ちゃんは清楚な女子高生だから、間違っても手を出さないでね~。だって彼女、処女だよ……? ふふっ」


「……余計な情報、どうもありがとう。

 ――そば屋ってことは、飲食街の臨月りんげつエリアだよな?」

「そうそう」

「臨月エリアなら、ここから徒歩でもギリ行ける距離だ。三時間、くらいか、大体」

「うんうん」

「……で、臨月エリアから皐月エリアまでの時間は推測不可能だが、三分の一の時間で到着できるとしたら、その時間、おそらく三時間」

「ということは~?」


 富勇は襟を正す。


「夕方頃にたどり着けるであろう、プランB+プランEで決まりだ」

「やったね! 乾杯~」

「乾杯っ」


 富勇と涼香はともにドリンクのグラスを掲げ、ゴクリと飲んだ。


 お子様の飲み物というものは、実に最高だ、と富勇はオレンジジュースの良さにようやく気づいた。


「よしっ、出発だ」

「うん!」


 それから二人は数分も経たないうちに、ラブホテルを出た。

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