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如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第一章 ヒーローにはヒロインが付き物
6/8

ぎゃふんとね

「佐々木涼香、二十八歳。命の恩人に……これから襲われます~。あんっ」

「やめろな? たとえ冗談でも、俺はあんたを襲わないぞ……襲わないからな」

「でもさ、ここラブホテルだよ?」

「……ラブホでもだ」

「えー? もうっ、つまんない~」


 駄々っ子のように涼香はバスローブのまま、キングサイズのベッドをゴロンゴロンと寝転び回る。


 ベッドに座る富勇はいつもより自分の呼吸が荒いことに気づき、あわてて呼吸を整え、チラッと涼香を盗み見してから、大きくため息をついた。


「まさか歳月エリアにこんな簡素なラブホテルがあるとはな。それも海沿いに」


 そのおかげで、海に落ちて海水でびしょ濡れになった富勇たちは、無事備えつけの夢鏡で身だしなみも整えられ、今夜の宿泊にもありつくことができた。


 だが――。


「頼むから、バスローブ姿はやめてくれないか? ほかにも服装あるだろ」


 涼香はゴロンゴロンするのをやめて、ハタと起き上がった。


 つい富勇は彼女を直視できず、視線をそらす。


「え~? でもラブホといえば、バスローブじゃない?」

「それは確かにそうだが。いや、でも困るんだ」

「なんで?」

「それは……って、あんただって分かってるくせに」


 目線の置き場に困るからに決まっているだろう、と思わず富勇は言いかけたが、寸前で違う言葉をお約束のように吐き捨てた。


 案の定、富勇の動揺を面白がって妖しく笑う涼香。


「うふふ、もっちろん分かるよー」

「……だろうな」

「当ててあげようか……?」

「な、何をだよ」


 涼香はゆらりゆらりと四つん這いになって富勇の元に近づいた。

 露わになった、ちょうどいい大きさの胸を揺らしながら。


 ゴクリと唾を飲みこむ富勇。


 涼香の顔が富勇の顔に接近し、彼女は富勇に――笑いかけた。


「目線の置き場に困るからだよね、ねっ?」

「失せろ」


 からかわれていることに気づいた富勇は、そのように涼香に冷たく言い放った。

 枕に顔をうずめながら、爆笑する涼香。


 愉快なお人だ、と富勇は面白くもなかったが、つい笑い出してしまった。

 そしたら、すべてが面白く感じられ、とうとう富勇も大声で笑い出した。


 まったく、世界はこんなにも面白くて愉快なものだったのか。

 まるで嘘みたいだ、と富勇は笑い転げた際に出た涙を、手の甲で拭いながら思った。


「で、このあとはどうするんだ? 如月親衛隊という“ファン”にも“追いかけられる”こと間違いなしで、なおかつ如月タワー幹部社員の“性犯罪者”からも“求愛”ときた。――さあ……お姫様はどうするおつもりで?」

「ふふっ。――皐月エリアにあるうちのキャバクラ『コールド』に行くよ、もちろんね。……明日の夜までに」


「というと?」

「宇津木をぎゃふんと言わせる」

「誰がぎゃふんと言わせる?」

「きみが」


 涼香は富勇を手で示してみせた。


「俺が奴をぎゃふんと言わせて……それで?」

「二度と宇津木にはうちの店には近づけさせないよう、約束させてもらう。……もう誰も女の子を傷つけたりはしないように」

「ああ、道理にかなってるな。――よしっ、それでいこう」

「もう出発する?」


 富勇はしばし考えこんだのち、「いや、寝ないことには意味がないから、交代で寝よう」と富勇はベッドから降りると、ホテル備えつけの椅子にドカリと座った。


「明日の朝に出発だ。それまではゆっくり休んでいろ。――佐々木さん?」


 寝てた。

 それもスヤスヤと。


「おやすみ、佐々木さん。……また明日な、良い夢を」


 富勇はサイダーナイフを手でもてあそびながら、如月親衛隊の襲来に備えつつ、自分もクタクタになった身体を少しでも休めるため、楽な姿勢を取り、けれど警戒態勢は解かずにいた。


 こうして長時間ぼんやりするのは慣れているため、これくらい富勇は苦にもならなかった。


 そして朝が訪れる。

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