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如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第一章 ヒーローにはヒロインが付き物
5/8

花火だ、サイダーだ、海だ!

「確認したいことって、なぁに?」

「……本当に徒歩で、この歳月エリアに来られるのか?」


 涼香はノンアルコールをグビッと飲み、無表情のまま「でも実際、来れたよ」とどこか隠し事をしたような話し方をする。


 富勇はいつの間にか、血の気が引いていた。


「まさかだが、その、佐々木さん」

「はい」

「如月親衛隊の空気自動車を奪って……ここまで乗ってきたか?」

「うーん……どうだったっけ? よく覚えてないんだよね、これが」

「思い出せ、早く」

「でも本当に覚えて――」


 フッ、と電気が消える。


 真っ暗。


 かすかに焦げ臭いにおいがしたときには、すでに富勇は叫んでいた。


「目を閉じろ」

「目を?」

「いいから早く!」


 直後、真っ暗になった瞬間を狙って、どこかからか閃光花火が弾ける“音”がした。

 どこかにある閃光花火は間隔を空けて、何度か閃光を発した“はず”。


 富勇は手探りで涼香の腕を――。

「あはは、バカ~。そこはあたしのおっぱいだよ」

「……よしっ、捕まえた」

「あん、そこは腕だよ?」

「腕だろうと胸だろうと、関係ない。それよりも……」

「それよりも?」


「衝撃に備え、かつ歯は絶対噛み合わせたままでいろよ」


 閃光花火がやんだ。


 そろそろ突入してくるに違いない。

 奴ら、如月人のみで構成された如月親衛隊が――突入してくる。


 だが、それを富勇は待ち望んでいるのだ。

 なぜなら――。


「何の音?」

「口を閉じろ、佐々木さん」


 富勇は素早い動きで、ズボンのポケットにあるサイダーナイフを取り出すと、それを“空中”に突き刺した。


 そのときに出来上がったサイダーの大きな泡は、目を開いた富勇と涼香を甘い香りとともに包みこみ、それは突然割れた窓ガラスの雨から富勇たちを守ったし、扉を破って暗闇から突入してきた如月親衛隊の銃拳じゅうけんの弾丸(銃拳とはグローブ型の軽い銃で、殴られた空気が弾丸となり、対象を襲う。殺傷能力はない)からも防御した。


「むっ、何者?」


 その言葉だけはかろうじて聞こえた。

 なぜなら富勇たちを包みこんだ泡は、滑り台のように速く滑り出し、この二〇二号室からはあっという間に出ていたからだ。


 泡を操縦するのは、富勇。

 ちなみに目は開けなくとも、泡の操縦はできた。

 なんとなく、目は開けておきたかったからだ。

 それに――次々にグレーの軍服を着た親衛隊の皆さんを跳ね飛ばしていくありさまは、なんとも愉快痛快なものだから。


 悲鳴、悲鳴、たまに怒声。


 泡の中にいる富勇と涼香は、アパートの階段にいる“愉快な仲間たち”を押しのけながら滑り続け、ついには一般道のコースに入った。

 揺れが激しくなったあたりから、富勇はチラリと涼香を見て、「大丈夫か?」と彼女に一声かけた。


 涼香はというと、

「……! ……? ……っ!」

 声にもならないのか、ただただ驚いているようだった。


「あぁ、そうか。口を開くな、って言ったのは俺だったな。忘れて――いって! 舌噛んだぁ」

「…………」

「そんな哀れみの目で俺を見るんじゃない、佐々木さん。仮にも命の恩人に対してだな、それは失礼だと、俺は――またひは(舌)、噛んら……」

「……っ」


 やめろ、俺のために泣くな。その涙は自分のために取っておいてくれ、そう富勇が言おうとしたとき、涼香がギョッとしたように前方を指差した。

 ハッと富勇が気づいたときには、もう遅かった。


 操縦から気がそれた富勇のミスで、富勇と涼香を乗せた泡は一般道を外れ、海のすぐそばの崖にいたようだった。

 そして今まさに二人は……海にジャンプ!


 口を閉じていないと舌を噛む泡移動は、確かに欠陥技だ。

 しかも、それ以外にも欠陥はあった。


 一度泡が滑り出したら、永遠に滑り続け、止まることはなく、それなら泡が壊れる条件はというと、たくさんの液体があるところ……そう、今回の場合だと、真下にある冬の寒さで完全に冷えた海だ。


 二人分の悲鳴を上げながら、富勇と涼香は海に落下した。

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