花火だ、サイダーだ、海だ!
「確認したいことって、なぁに?」
「……本当に徒歩で、この歳月エリアに来られるのか?」
涼香はノンアルコールをグビッと飲み、無表情のまま「でも実際、来れたよ」とどこか隠し事をしたような話し方をする。
富勇はいつの間にか、血の気が引いていた。
「まさかだが、その、佐々木さん」
「はい」
「如月親衛隊の空気自動車を奪って……ここまで乗ってきたか?」
「うーん……どうだったっけ? よく覚えてないんだよね、これが」
「思い出せ、早く」
「でも本当に覚えて――」
フッ、と電気が消える。
真っ暗。
かすかに焦げ臭いにおいがしたときには、すでに富勇は叫んでいた。
「目を閉じろ」
「目を?」
「いいから早く!」
直後、真っ暗になった瞬間を狙って、どこかからか閃光花火が弾ける“音”がした。
どこかにある閃光花火は間隔を空けて、何度か閃光を発した“はず”。
富勇は手探りで涼香の腕を――。
「あはは、バカ~。そこはあたしのおっぱいだよ」
「……よしっ、捕まえた」
「あん、そこは腕だよ?」
「腕だろうと胸だろうと、関係ない。それよりも……」
「それよりも?」
「衝撃に備え、かつ歯は絶対噛み合わせたままでいろよ」
閃光花火がやんだ。
そろそろ突入してくるに違いない。
奴ら、如月人のみで構成された如月親衛隊が――突入してくる。
だが、それを富勇は待ち望んでいるのだ。
なぜなら――。
「何の音?」
「口を閉じろ、佐々木さん」
富勇は素早い動きで、ズボンのポケットにあるサイダーナイフを取り出すと、それを“空中”に突き刺した。
そのときに出来上がったサイダーの大きな泡は、目を開いた富勇と涼香を甘い香りとともに包みこみ、それは突然割れた窓ガラスの雨から富勇たちを守ったし、扉を破って暗闇から突入してきた如月親衛隊の銃拳の弾丸(銃拳とはグローブ型の軽い銃で、殴られた空気が弾丸となり、対象を襲う。殺傷能力はない)からも防御した。
「むっ、何者?」
その言葉だけはかろうじて聞こえた。
なぜなら富勇たちを包みこんだ泡は、滑り台のように速く滑り出し、この二〇二号室からはあっという間に出ていたからだ。
泡を操縦するのは、富勇。
ちなみに目は開けなくとも、泡の操縦はできた。
なんとなく、目は開けておきたかったからだ。
それに――次々にグレーの軍服を着た親衛隊の皆さんを跳ね飛ばしていくありさまは、なんとも愉快痛快なものだから。
悲鳴、悲鳴、たまに怒声。
泡の中にいる富勇と涼香は、アパートの階段にいる“愉快な仲間たち”を押しのけながら滑り続け、ついには一般道のコースに入った。
揺れが激しくなったあたりから、富勇はチラリと涼香を見て、「大丈夫か?」と彼女に一声かけた。
涼香はというと、
「……! ……? ……っ!」
声にもならないのか、ただただ驚いているようだった。
「あぁ、そうか。口を開くな、って言ったのは俺だったな。忘れて――いって! 舌噛んだぁ」
「…………」
「そんな哀れみの目で俺を見るんじゃない、佐々木さん。仮にも命の恩人に対してだな、それは失礼だと、俺は――またひは(舌)、噛んら……」
「……っ」
やめろ、俺のために泣くな。その涙は自分のために取っておいてくれ、そう富勇が言おうとしたとき、涼香がギョッとしたように前方を指差した。
ハッと富勇が気づいたときには、もう遅かった。
操縦から気がそれた富勇のミスで、富勇と涼香を乗せた泡は一般道を外れ、海のすぐそばの崖にいたようだった。
そして今まさに二人は……海にジャンプ!
口を閉じていないと舌を噛む泡移動は、確かに欠陥技だ。
しかも、それ以外にも欠陥はあった。
一度泡が滑り出したら、永遠に滑り続け、止まることはなく、それなら泡が壊れる条件はというと、たくさんの液体があるところ……そう、今回の場合だと、真下にある冬の寒さで完全に冷えた海だ。
二人分の悲鳴を上げながら、富勇と涼香は海に落下した。