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如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第一章 ヒーローにはヒロインが付き物
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任務発生

「――さて、夕食が始まってすぐに申し訳ないが、あんたはどこの誰だ? どうして俺の名前を知っている? それにどうして俺のアパートに来た? 目的はなんだ?」

「んっ! ……やだぁ、もう~。ねえ、これってノンアルコールでしょう。もう、意地悪なんだから~」

「ちゃんと質問に答えてくれ。俺は真面目に聞いているんだ」


 愉快そうに涼香はカラカラと笑ったが、それもすぐに収まり、いつしか彼女は真剣な顔つきになった。

 自然と富勇の顔も強張る。


 実は、と涼香は口元だけ笑いながら、おもむろに話し出した。


「あたしの働いているキャバクラ――『コールド』にね、国王様が根城にしている如月タワーの中年男性の幹部社員がお客さんとして来店したんだけど――薄目で小柄な宇津木って人ね――、どうもその人、女の子と性行為をするのが目的みたいで。

 現にね、もう何人も女の子が餌食になってしまって、彼女たち、もう身も心もボロボロになっちゃった。

 そしたらね、今度は……」


「あんたの番、ってわけか」


 こくんと涼香はうなずいた。


「前々からきみのことは噂に聞いていたんだ。――サイダーナイフを自由自在に扱う日本人キラー」

「……しょせん噂は噂だな」

「でも、サイダーナイフの使い手は合ってる」

「それも噂かもしれないぜ」

「それはどうかな、この家の中に入るとき、確かにサイダーの甘い香りがしたよ」

「……気のせいじゃないか」


 涼香はかぶりを振った。


「でもね、その噂を信じて、今日あたしは皐月エリアから徒歩でここまで来たんだよ、富勇くん」

「つまり、俺にあんたのボディガードをしてくれ、と?」

「そう」


 富勇は目を見開き、それから大きく息を吸った。


 思わぬ厄介案件が舞いこんできたものだ。


 依頼者がいるにも関わらず、思わず富勇は苦虫を嚙み潰したような顔をしてしまう。


 キャバクラ嬢なのは見抜いていた。

 皐月エリアから来たことも察していた。

 訳ありの娘だということも勘づいていた。

 だけど、それが“こんなにも訳あり”だとは夢にも思わなかった。


 まさか、この国の“国王”である如月玄奘きさらぎ・げんじょうの部下から身を守ってくれ、とお願いされるとは、そう富勇は額を手で押さえた。


 如月玄奘は老齢のやせ細った禿頭に近い実業家であり、この悪しき国の国王でもある。


 如月玄奘のいる如月タワーは、111階建ての超高層タワーで、建物の外見は黒い筒のような形状をしている。


 その如月タワーの幹部社員である宇津木から襲われる真似がないよう、涼香はサイダーナイフの使い手である富勇にボディガードをしてほしい、そう頼みたいわけだ。


 しかし、それにしても――。


「なんでまた如月タワーの幹部社員なんかが皐月エリアに来たんだ? 如月エリアには、キャバクラでも風俗でもなんでも揃っているだろうに」

「なんでだと思う?」


 弱々しく涼香は笑った。


 ということは、つまり……。


「嫌がらせか」

「うん、そういうこと」


 なんだろう、聞くだけで腹が立ってきた。

 やはり如月タワーにいる上層部の者も、ちゃんと野蛮だということか、そう富勇の目は不穏になっていく。


「分かった。あんたをボディガードする責務、引き受けた」

「ほんと?」


 ただし、と富勇は人差し指を一本伸ばした。


「ひとつだけ確認したいことがあるんだ」

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