表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第二章 大ピンチのときには哲棒をねじ曲げろ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/15

おしゃべり女将

 どうしようもなくなった富勇は、諦めて立ち止まる。


 どこだ、ここ?


 そのときだ。

 人の気配がしたかと思えば、曲がり角から背の高い垂れ目の中年女性が現れた。


 とっさに富勇は「あっ、どうも。不審者でも侵入者でもないです」と聞かれてもいないのに、そんな言葉が口を衝いて出てしまう。


 割烹着姿をした垂れ目の女性はというと、見るからに驚いている様子だった。


「あれま! あんた、富勇くんじゃないの。どうしてこんなところにいるんだい。まさか、この複雑な迷路みたいな家で迷ったの?

 そんな、まさかね。そう、まさかだよ」

「そのまさかなんだが……なあ、あんた、ここの家の者か?」


「…………」

「…………」


 史上最も妙な沈黙のあと、割烹着を着た垂れ目の女性はうなずいた。


「アタシはね、大宮里子おおみや・さとこっていうのさ。見てのとおり、ただの古臭い割烹着を着たおばさんだよ」

「あぁ、大宮っていうと……」

「既婚者だよ。間違っても、こんなシワが増えたおばさんを狙わないでおくれ」

「あぁ、ということは……あんた――」

「旧姓は木下きのしたさ。……まっ、今や実家には帰れないけどね。帰るつもりはあるよ? でも何せ帰省できないからね、この嫌な国からは」

「うん、となると――」


「やっぱりそば屋の女将となると、忙しいねえ。うちで働く子たちは皆、忙しさのあまり、早々と辞めていくんだよ。

 まったくねぇ、これだから若い子は……気合と根性と継続力がないっていうか、なんというか、やるせないねぇ。

 うちの旦那みたいに、やるときはやってくれないと、困るんだよ、本当に」


 このひとは相当おしゃべりだ、と富勇は唾をゴクリと飲みこんだ。


「ああ、分かる、分かるさ、分かるぜ」

「分かるだろう? 分かってくれるのは、ありがたいねえ。

 あぁ、そうそう、ところであんた、仕事はしたことあるのかい? アタシの直感じゃあ、あんたは無職だよ。なぜってあんた、年上相手にですます口調もできないようだからね。

 たとえあんたがうちで働きたくとも、とてもとても多忙なうちで働くのは無理だよ。それからね――」


「お、お茶の間ってどこだか分かりますか? 里子さん」


「お茶の間? お茶の間なら、これからアタシも向かうところだよ。……そうそう、それとね――」

「お願いします、俺……いや、僕をそこまで案内できますか? 僕、お茶の間がどこにあるのか、分からないんです」

「あらやだ、それは大変じゃないの。それじゃあ、朝餉には間に合わないんじゃなくて」

「ええ、そうなんですよ。ですから僕を案内してください、お願いします、里子さん」


 富勇は頭を下げて、里子に頼みこんだ。

 てっきり富勇はため息をつかれる覚悟でいたが、そんなことはなかった。


 里子はアハハと笑い出すと、親指を立てた。


「いいよ、案内してあげるからね」

「ありがとうございます……!」

「どういたしまして。――まっ、うちで働こうったって、そうはいかないからね」

「それは……さすがに辞退します」

「それがいいよ。なんて言ったって、うちは普通の飲食店とは違って、きついからね。よそを当たりな」

「……はい」

「そういえば、富勇くん」

「はい……?」


 ペラペラペラペラ……ペコペコペコペコ。


 富勇はおしゃべりが止まらない里子の案内を受けて、ようやく朝食の場――お茶の間にたどり着く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ