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如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第二章 大ピンチのときには哲棒をねじ曲げろ

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12/15

方針決定

 あきれた富勇は、かぶりを振った。


「そろそろ話を戻してくれ、緊張の糸が切れそうだ。……というか、すでに緊張の糸は切れている」

「おっとっと、これだから俺様は困るぜ。

 ――そう、だがそのバイクも今は奴に奪われてしまってな」

「ダメじゃないか。乗れないじゃないか」

「こらー、乗れないじゃないか~。しっかりしろ~」


 富勇は可愛いヤジを入れる涼香に一瞥を与えると、すぐに永嗣に目を戻した。


「それで?」

「バイクを奪ったのは、如月親衛隊隊長の鮫島恵太さめじま・けいたって奴だ。自前の哲学で哲棒てつぼうを使いこなす、あのへなちょこ……お前さんは知ってるか?」

「知ってるも何も……変わり者で有名だからな、奴は」


 ひょろりとしたつり目の三十代半ばの哲棒使い(自身の考えた哲学次第で使い方が変わる、特殊で珍しい棒)の恵太は、オリジナルな哲学もどきの思想を持っていることで有名だ。


「そこの涼香ちゃんはよぅ、一晩のあいだ、お前さんの回復を待ってたんだ」

「一晩、俺を待ってた、か」

「そうだ。まっ、あとは分かんだろ、サイダーナイフの使い手……朝倉富勇くん」

「ああ。

 ――まずはバイクを奪い返す。

 ……親衛隊、それに親衛隊長の鮫島と一戦交える覚悟は、とっくにできたさ」

「よーしきたっ、上出来だ」


 手をパンと打ち鳴らす永嗣。


「バイクの乗り方は、あとで俺様が富勇くんにばっちし教えてやるから、安心しとけ」


 富勇はコクリとうなずく。


「よし。なら、早速俺たちは――」

「富勇くん」


 ニコニコと笑っていた涼香は富勇の言葉を遮ると、それからすぐに言葉を休めずに言った。


「それなんだけど……まだ富勇くんは休んでいて」

「どうしてだ?」

「富勇くんには無理をさせてしまった、あたし」

「うーむ、そんなことは――」

「富勇くん」


 よく見ると、涼香は笑顔のまま泣いていた。


 それで富勇はすっかり沈黙した。


 二人に配慮したのだろう、意気揚々と立ち上がった永嗣は「さあて、飯でも作るぞ、飯」と乱暴に障子を開け閉めし、跡形もなくいなくなった。


「…………」

「……ごめんね」

「どうして謝るんだ、佐々木さん。あんたは謝るようなこと、何もしていないんだぞ」

「あたし、知ってたの。

 ……あたしがホテルで寝ているあいだ、富勇くんは不眠不休で起き続けて、あたしをいつ来るか分からない親衛隊の襲撃から守っていてくれたこと、知っていたんだ」


「……まあ、気づかないっていうほうが無理だからな。

 でも俺としては、そこを突っ込まれたくはなかったんだが」

「なら、なおさらのこと、この言葉を言わないとだね。……ありがとう、富勇くん」

「ああ、どういたしまして」


「それだけじゃない。

 ……不眠不休にも関わらず、高熱を出して身動きが取れなくなったあたしを背負って歩いてくれたこと、一生忘れないんだからね。本当に、ありがとなんだよ」

「ははっ、どういたしまして」


 富勇は手をヒラヒラとさせた。


「それはそうと、佐々木さん」

「ん、何かな」

「さっきのキス、気のせいか舌が絡まなかったか?」

「どど、どうだろう? 気のせい、じゃないかなぁ」

「そうか? もし色仕掛けで何か頼み事をするようなら、次からは自分の口でしゃべってほしいんだが」


 富勇は真面目に涼香に訴えた。


 恥ずかしそうに、涼香は顔を赤らめた。


「わ、分かった、分かったから……! だから、この話はもうやめにしようよ、ね?」


 いつもの涼香らしくないことに気づいた富勇は、彼女の顔をまじまじと見つめた。


「な、何かな?」

「もしかして……佐々木さん、酒を飲んだのか?」

「…………」

「…………」


 やたらに気まずい沈黙が流れた。


「……分かったよ」

「うん?」

「あたしのすべきことが、今分かった」

「それは一体……?」


「……今からあたし、今度は堂々ときみにキスするね」

「お、おい、やめるんだ、佐々木さん!」

「富勇くん……」

「誰かこの酔っ払いを止めてくれぇ!」


 バタバタ……ポカリ。

 ドタドタ……ガラリ。


 誰かが和室に入ってきた。

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