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如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第二章 大ピンチのときには哲棒をねじ曲げろ

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せっかち

 こんなふうに話に花を咲かせている場合ではない、と富勇はスクッと立ち上がった。


「どうしたの? ……富勇、くん」

「佐々木さん、俺たちはこんなことをしている場合じゃない。

 ――今すぐにでも行かないと、皐月エリアにあるあんたの店まで。だって、あんたはみんなを助けるんだろう?」

「知ってるよー、そんなことくらい~」

「なら……!」


「おっと! せっかちはいけねえ、富勇くん」


 二人のあいだに割って入るのは、さっきまで穏和な顔をして笑っていた永嗣。

 今や、彼の顔は険しい。


 こらえきれず、富勇は「せっかちなんかじゃねえ」と叫んだ。


「だって――佐々木さんと俺は……!」

「まあ、座れ」

「座っている場合じゃない、そんなことを言うのはやめろ!」

「自転車はないんだ、富勇くん」

「……なん、だと?」


 自転車がない?


「それはどういうことだ、永嗣さん。いや、でも確かに俺は……佐々木さんから自転車がここにあると聞いたんだ。だから俺たちは――!」

「ごちゃごちゃ言ってねえで、座ったらどうだ。――ほれ、俺様のように座ってみろ」


 そう言うと、永嗣は畳の上にあぐらをかいた。


 仕方なく、それで富勇も布団の上にあぐらをかいて座った。


「それで……自転車がないとはどういうことなんだ、永嗣さん」

「今、自転車はここにはない」

「なぜだ」

「うちの家内が、かねてより懇意にしている如月英美里きさらぎ・えみり王妃にあげたからだ」

「如月英美里、王妃に……ちくしょう!」


 あの窪んだ目の中年ババアが、と富勇は毒づき、拳で布団を殴りつけた。


「くそっ! ここまで来て……自転車がない、だなんて。じゃあ、俺たちは皐月エリアには――」

「ったく、だからお前さんはせっかちでいけねえんだ」

「……なんだって?」


 富勇は永嗣をにらみつけた。

 負けずと、永嗣もにらみ返す。


「いいか、よおく聞け、アホンダラ」

「ああ、よーく聞いてやるさ」

「あはっ。二人ともー、仲良くね~」


 富勇たちをなだめる間延びした涼香の声は、二人にとって我に返る良薬となったらしく、富勇も永嗣も互いに目を伏せた。


 えへんえへん、と永嗣は気まずさを払拭するように、咳払いを繰り返した。


「とにかく、自転車はない。そう、だからと言って、俺様たちはお前さん方を見捨てはしねえ」

「ありがとう。……しかし、というと?」

「バイクだ」


 嘘だろ、と富勇はつい笑ってしまった。


「それって……昔に発売されたガソリンとかいう燃料で走る乗り物だよな」

「そうだ。よく知ってるな」

「まだ若い頃の父方の曾祖父がバイクにまたがっている写真が、うちの実家にあったからな。

 このでかいのは何かと両親に聞いたときに、寡黙な親父から教えてもらったんだ」


 永嗣は眉を持ち上げた。


「ほう、お前さんの曾祖父もバイクに乗っていたとは……もしかしたらお前さんも乗りこなせるんじゃねえのか?」

「バカを言うな、そんな芸当なんてできるはずがないだろ。一度たりとも、バイクなんてもんには乗ったことも触れたこともないんだよ、俺は」

「これはこれは失敬失敬」


 どうも先ほどまでの険悪な雰囲気をすっかり忘れたらしく、永嗣はガハハと実に楽しそうな笑い声を上げた。

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