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如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第二章 大ピンチのときには哲棒をねじ曲げろ

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命の恩人

 富勇は目が覚めたとき、彼は自分の目を疑った。


 なぜなら――。


「わわっ」


 あわてたように涼香は富勇に“接吻”するのをやめて、この部屋、和室の障子まで後退した。


「おわっ」


 たまらず富勇は起き上がり、自分の唇に手を触れ、嘘だろ、と障子のそばで顔を赤らめている涼香に声をかけた。


「俺に今、なんかしたか?」

「……えっ、キスじゃない?」


 そうか、キスか、と富勇は納得しかけた。


 いやいや、それならなおさらおかしなことだ。


「そうか、佐々木さん……まさかあんた」

「うっ」

「また何か頼み事があるんだろ? それで俺に色仕掛けをした、そういうことだな?」

「そ、そうだったかな? あれ、でもまさか本当だったなんて、知らなかったよ」

「何がだ?」

「昏々と眠り続ける人にキスをすると、その人の目が覚めるっていう、いわゆる都市伝説」

「ほう……それはなかなかパンチがきいた都市伝説だな」


 そう富勇が納得したとき、障子がガラリと開いた。


「おうっ、目が覚めたか、お前さん」


 そう言って部屋に入ってきたのは、和の料理人といったようないで立ちの浅黒い顔をした中年男性。


 なかなか陽気そうな男だ、と富勇は中肉中背の彼を第一印象で感じた。


 富勇は涼香の顔を少し見てから、陽気そうな男に「あんた、誰だ?」と尋ねた。


 陽気な男は胸をドンとたたいてから、「俺様は大宮永嗣おおみや・えいじっつう、そば屋『大味谷』の店長だ。まっ、堅苦しいのはなしだ、富勇くん」と哄笑してみせた。


 大宮、大宮……大宮?


「もしかして娘さんは……大宮律子、さん?」

「おうよ! まさしく律子は、俺様の愛娘だ」


 そうだったか、それではここは中継地点なのだ、と富勇は安堵の息を漏らした。


「よかった、あのときはもうダメかと思ったんだ……でも、どうして俺はここに?」


 富勇が不思議そうに聞くと、永嗣は少し考えこんだのち、

「改良型・真ドローンって知ってるか、お前さん?」

 と、トンチンカンなことを言ってきた。


「ああ、ドローンなら知ってる。遠隔操作や自動操縦で飛ばすことができる、昔の無人航空機のことだろう?」

「それを俺様は飛ばしていたんだ。ほんで、送られてくる映像に映るお前さん方を見つけた、ってわけだな」

「……正気か?」


 おうとも、と永嗣は腕組みをし、ニヤリと笑った。


「改良型・真ドローンっつうのはな、百年くらい前に発売されたもので、台風や嵐などでも活躍できる、ちょっとした優れものだ」

「なぜそんなものを、あんたは持っているんだ……? ドローンだけでも、あれは確か、今でいうと、一億はくだらないんじゃないのか?」

「詳しいな、お前さん」


 この男、実は今すぐに骨董品屋でも始められるんじゃないか……?


 そう富勇は青ざめるなり、自分が今寝ている布団や枕を恐々と見つめる。


 まさか、この布団や枕も……?


「富勇くん、その布団と枕は――」

「布団と枕は……?」

「百年前くらいの日本の皇帝陛下の布団と枕だってぇ。すごいよね」


 すごいのかよく分からないが、とりあえず小便を漏らしそうだ、と富勇は思わず立ち上がりかけた。


 いや、それよりも、と富勇は永嗣に向き直った。


「ということは、あんたが俺たちの命の恩人なんだな」

「よせやい、命の恩人だなんて。俺様はお前さん方を拾っただけだってばよ」

「そうか、ありがとな」

「おーん……そらみろ、ケツがかゆいかゆい」


 永嗣はお尻をポリポリとかき、それを見た涼香は爆笑し、彼の背中を面白そうに何度かたたいた。


 笑わないように心がけたが、ついに富勇も吹き出してしまった。


「永嗣さん、あんた最高だよ」

「へへっ、俺様もお前さん方二人を拾ってきて、万歳したいくらいなんだぜ」

「それは一体どうしてだ?」


 永嗣は鼻を指でこすり、腰に手を当てた。


「うちの律子がな、ここんところ、この国の現状を憂いに憂いていてな……それで塞ぎこむ毎日だったんだが、俺様がお前さん方を拾ってからは、あの子は涼香ちゃんとの話に夢中になって、男くさい富勇くんにも興味を持って、今ではあの子の可愛い笑顔も見られるようになったんだ。……恩に着るよ」


「おいおい、なんだか俺のお尻もかゆくなってきたぞ、まったく。――なあ、佐々木さん?」

「いやん、レディーのお尻はかゆくならないんだよ。富勇くんったら、下品~」


 まったく涼香は受けてない様子だ。どころか、真に受けすぎている。


 ただ、これを聞いていた永嗣は笑っていたが。


 愉快な連中だ、と富勇はカカッと笑った。


 そう、本当に愉快な……。

 …………。


 まずい、しまった、と富勇はそのとき、今さらながらに思い出した。

 自分たちがなぜ中継地点として臨月エリアに来たのかを、はっきりと思い出した。

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