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23 旧正月の夜は更けて①

 旧正月前期間でも、観光客向けの施設は開いている。セントーサ島の水族館など、デート向きな施設では、気を利かせた両親は花子と侑哉を二人きりにしたが、花子ははしゃいで先に行ってしまうのでロマンチックな雰囲気にはならない。そもそも侑哉が「危ないぞ、転ぶなよ」などと言うので「お父さんみたい」と、恋人属性からは遠ざかるのだ。


「楽しんでる?」

 とは、岩本からのラインだ。彼は今日これから、秋葉原で推しのライブに行くらしい。静音さんに淡い恋心はあれど、趣味としてアイドルを追いかけるのは別物だそうだ。侑哉は花子に、岩本から送られてきたライブの写真を見せる。

「懐かしいねー」

 花子は嬉しそうだ。そして、皆に会いたいなどと言っている。その様子に、侑哉は気になっていたことを聞いてみた。

「はなちゃんは、どうしてまた外国に来ようと思ったの?」

 花子は、首をかしげた。侑哉の言葉の意味がわからないわけではない。笑いながら聞き返してきた。

「どうしてそう思ったの?」

 質問に質問で返され、侑哉は言葉に詰まる。黙ってい る侑哉に、花子は少し意地悪そうに言う。


「侑哉はどうして、日本が嫌じゃないのに私が日本から いなくなったんだろうって思ってるんでしょ」

 侑哉はうなずく。深く考えて聞いた訳ではないが、少なくとも否定的なニュアンスで言ってはいない。

 それがきちんと伝わった花子は、大きな水槽の前に立ち止まり、話す。

「私、日本の学校とは合わなかったけど、ともさんのお店やカフェ、それに侑哉からとても元気をもらって、居場所がたくさんできたんだ」

 うん、と侑哉は相づちをうつ。

「だから、今度は英語圏の高校に行ってきちんと勉強しようと思って。お父さんにもちゃんと話して、わかってもらえたし」

「そっか......」

 侑哉はそれを聞いてホッとしたのが自分でわかった。

 その表情を見て花子は侑哉に聞く。

「さみしかった?」

 セリフのように、芝居がかった言い方は照れ隠しなのだろう。侑哉は「さあ?」とうそぶくが、次の瞬間、花子からはイノシシタックルをかまされてしまった。お約束でみぞおちを抱えうずくまる侑哉を見下ろし、花子は心配そうな、おかしそうな顔をしている。侑哉は、笑った。花子が前向きな気持ち日本を出たのが、嬉しかったからだ。


「じゃあ、縁があったらまた会えるな」

 タックルされた痛みが引いてきたところで、侑哉はゆっくりと立ち上がり花子に言った。外国と日本とで離れてしまうが、そもそも海外育ちの花子と日本で会えたのだから、いつかきっと、また会えるだろう。ヒロインを無理矢理奪還する必要はない。しかし侑哉は、物理的にではなく、取り残されてしまう寂しさを感じた。

「なんかやっぱりさ......。皆、ちゃんと考えてるんだな。俺は自分がどうしたいのか、自分じゃよくわかんなくて」

「わからない?」

 花子がきょとんとする。

「侑哉が?」

「うん。大学入ったはいいけど、将来の夢とかないし。おじさんの店継ぐのもちょっとありかなと思ったけど、環境に依存してるだけだからそれも違うんだろうな、とわかったし」

 項垂れ、猫背になる侑哉を見て、花子は溜め息をついた。

「だからその猫背やめなってば......ほんとお父さんみたい」

 そうして花子は、侑哉の背中を勢いよく叩く。咳き込 んだ侑哉に、花子は笑顔で言った。

「じゃあ、まずは免許取らない? 車の免許」

「はあ?」

 話が飛躍し、侑哉は眉間に思い切り皺をよせる。

「私が帰国する前に取っておいてくれると、出かける時に便利じゃない? うん、そうしよ! まずは免許!」

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