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19 コタツで練るヒロイン奪還計画②

「おかえりー」

 炬燵に寝転がったまま、のんきに出迎えてくれたのは、弟の涼介だ。

 受験生らしくリラックスした体勢のまま、問題集を解いている。器用だ。

「ただいま。お母さんは仕事か。お父さんは?」

 侑哉は居間を見渡すが、誰もいないし、静かだ。

「お父さんは、寝てる。お母さんが帰って来たら起こしてって言われてる」

 母親の美弥はショッピングセンターで働いているので、正月休みはないのである。一家そろって初詣という年でもないので、ここ数年はめいめいだらだら、好き勝手に過ごしているのだ。


「ほい、土産」

 侑哉は鞄をおろして上着を脱ぐと、合格祈願のお守りを涼介に渡した。

「気休めじゃん」

 そう言いながらも、涼介は嬉しそうに笑って体を起こす。侑哉も炬燵に入り、向かい合わせでみかんを食べる格好になった。

「なあ、兄ちゃん。合格したらさ、なんか買ってよ」

「はあ? なんで俺が? お父さんに頼め」

「だからさ、兄ちゃんははなちゃんのお父さんなんでしょ」

 涼介は、以前に侑哉が「俺は彼氏じゃなくお父さん」といったのがツボだったらしく、たまにネタにしてくる。


「それさあ」

 侑哉は炬燵から出ると、自室からパスポートを持って きた。花子にけなされた写真のページをひらくと、おそるおそる涼介に聞く。

「この写真、だめ? お父さんっぽい?」

 みかんの脇に置かれたパスポートを手に取り、涼介は改めて侑哉の証明写真を見た。今よりやや髪は短いが、 いつものゆるい茶色いパーマの前髪から、睨むような眼がのぞいている。

「うーん......お父さんっていうより、すっごい不機嫌そうな人だよね。兄ちゃん、なにかあったの?」

 首を傾げる涼介を見て、うーん、と侑哉も考えこむ。

「いや、何もないんだけど。この写真がお父さんっぽいってはなちゃんが言うわけよ。はなちゃんのお父さんは免許の写真が指名手配犯らしい」

「それさ。みんな言うよね? てか兄ちゃん、免許取らないの?」

「ん? 免許? 車の?」

 そういえば、岩本も免許は持っており、群馬の旅行の際には花子たちを乗せて買い物にも出ていた。

「......あんまり考えてなかったな。あと、そこまでバイト代たまってないし」

「お金なんかさ、お父さんに前借りしなよ。取れるときに取っといたほうがいいんじゃないの。ほら、デートに行くときとかさ」

 相変わらずモテる男子っぽい意見をかましてくる弟に、侑哉はジト目を投げかけるが、涼介はさらに現実的なことを言ってくる。

「第一、就職活動始まったら免許取りにいく時間ないじゃん。いまどき運転できないなんて、自分の可能性を狭めるだけだよー。履歴書には最低、普通免許!」

「......なんでお前そんな老成してんの」

 そこで涼介はさっと自分の部屋に行くと、何かを持ってきた。侑哉が訝し気な顔をすると、「じゃじゃんっ」と勿体ぶって本を取り出す。中学生向けの職業パンフだ。

「少し前に学校でこれ渡されて、シミュレーションしてパワポで発表させられたんだよね。そしたら夢は広がったんだけど、割と免許ないと詰むっていうか。むしろ運転できるのがデフォっていうか」

 涼介はすらすらと発表の内容を話す。四歳離れただけでも、学校の指導も変わり子供の意識も変わるものか、と侑哉は唸ったが、これは性格の問題なのかもしれないと思い直す。そして、免許はあったほうがいいとは、実は侑哉も感じている。

「うーん......」

 唸る侑哉に、涼介はややあきれ気味だ。

「兄ちゃんてさ、頭固いよね。もうちょっと気楽に考えなよ。同じ長男でもさ、友義おじさんなんて結構適当じゃん。フットワーク軽いし」

 ああ、と侑哉は首を振る。

「おじさんはさー。特殊じゃない? 一人で海外もほい ほい行くしさ、なんか冒険者みたいな。俺みたいなインドアとはタイプが違うっていうか」

 読書家で見聞も広い友義は、海外にもともと抵抗がな いのだろうと侑哉は思うが、涼介は肩をすくめた。

「そういう考え方がすでにもったいないね。それじゃヒロインは奪還できないよ」

「なんだ。ヒロインて、誰だよ」

「はなちゃんに決まってんじゃん」

 だよな、と侑哉はため息をつく。

「でも、よく聞け、涼介。はなちゃんは違う国に行っちゃったんだよ。「非モテ」のユウヤはまりんちゃんにモテているが、しょせん名前が同じなだけで俺は現実世界のしがないよくいる大学生にすぎないんだ」

「......兄ちゃんてほんと、めんどくさいな。真面目で型から外れないっていうか」

 涼介は本気であきれた顔をするが、話はそこで終わり、涼介は勉強を再開した。


 侑哉は買ってきた本を読み、炬燵でそのまま各々の時間を過ごしていると母親が帰宅したので、父親を起こし、一家そろっての夕飯となる。

 年末から用意していたお節料理と、簡単なつまみがテーブルに並ぶ、堅苦しくない正月の食卓だ。

「涼介もあっという間に試験か。今年の目標はまず高校合格だな」

 寝起きだが父はさすが父親らしいことを言う。

「ほんと、とりあえず体調だけは気をつけないとね」

 母親は一仕事終え、肩を回している。

「部活やってたときは風邪もひかなかったし、大丈夫っしょ」

 涼介はマイペースだ。家族三人の会話を聞きながら、侑哉は無言で食事をする。あまりに静かな長男を見て、母はびっくりしたようだ。

「ちょっと侑哉、具合でも悪いの?」

 母の美弥が心配するが、侑哉は外出して疲れただけだと答え、今日寄らなかった友義の古書店のことを考える。

 私生活は元々不明だが、親戚が集まる時も、あまり顔を出した記憶がないのだ。

「そういえばさ、友義おじさんて正月は何してんの?」

「トモ兄さん? 引きこもってるんじゃないかな」

 母は、なにを突然? と言いながらも真面目に答える。


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