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2 ピンクのツインテールはお好きですか(2)

「ピンクのふわふわ......」

 侑哉の発した声に、そのピンク色の髪をした女子は立ち読みの本を手にしたまま、くるっと振り向く。小柄な体とピンクのツインテールは、紺のセーラー服に不思議と似合っていたが、全体的に二次元からでたアニメキャラのように見えるのは、美少女と呼べる顔の造形はもとより、垂れ気味の大きな目が茶色だからかもしれない。

「おはよ」

 女子はにっこり笑って、また手元の本に視線を戻した。

 侑哉と女子は、明らかに初対面だ。

 しかし、つい先刻同じものを見たばかりのような。そう思って侑哉は横を向き、自分が突っ伏しているカウンターを確認した。友義が作ったツインテールの人形がある。

「うわ......!」

 思わず侑哉は叫んだ。

「なに?」

 女子は再び侑哉の方を向き、訝しげに眉をひそめながら小首を傾げる。その仕草も二次元っぽいが、目の前にいる女子は実写版である。

「え......まさか俺、異世界転生してる? いやでも別にトラックに跳ねられてないし設定には古本屋なんてなかったはず」

「なにいってるの......」

 ピンクのツインテール女子の表情が、みるみる不審者を見るそれに変わる。

 そこに、ドアを開ける音と「ただいまー」という呑気な声が聞こえた。

「あれ? はなちゃん?」

 友義の呼びかけに、ピンクのツインテール女子はいたって普通に返事をする。

「あ、ともさん」

 どうやら二人は知り合いらしい。侑哉はせわしなく首を左右に振りながら、ぶつぶつと呟く。

「ええと......ひょっとしておじさんもなんかの組織の人で俺はこれから人体実験とか変な目に合わされるという流れが」

「なにいってんの」

 侑哉のズレたうろたえ方に、友義もあきれ顔だ。

「ともさん、この人さっきまで寝てたから」

「あー、なるほど。そういえば侑哉は昼寝から起きると、しばらく幻覚を見てるような子だったな」

 誤解を招くような言い方だ。

 友義が買ってきてくれたコーヒーを飲み、やっと頭が すっきりした侑哉は、ピンクのツインテール女子と互いに自己紹介をした。


 秋月侑哉、と侑哉がフルネームを名乗ったら「新野じゃないんだ」と言われたので、友義は母の兄だという説明もすると、ツインテール女子はふうん、と興味なさそうに言った。

 ツインテール女子の名前は、沖花子。

 侑哉が「沖さん」と呼ぼうとしたら名前が良いと言われ、花子さんと呼んだら「それは嫌」と強く言われてしまった。

「ティナでもいいよ」

「え? なんで?」

 日本的な、花子という名前とは結び付かない。

「仕事の名前。私アキバのコスプレカフェでバイトしてんの。あ、良かったら来てね。お友達沢山連れて」

 コスプレ。なるほど。侑哉の頭には、この非日常的なピンク頭とセーラー服が結び付いた。

 しかし返事ができずに口ごもる。

「なに? コスプレ興味ない?」

「いや、俺、友達いないんで......」

 フリではない。入学以来、講義を選ぶために近くの席にいる男子と少し話したが、サークルも入らずバイトも親戚が経営する古書店とくれば、受験から解放された大学生たちと会話も行動もすぐに合わなくなるのだ。

 ははあ、と花子は納得したような顔をした。大きな垂れ目は思ったより表情豊かに動く。そして花子は嬉しそうに目尻を下げ、ちょっと恥ずかしそうに笑った。

「おんなじ。私も友達いないからさ、仲良くしよ」

 そう言って手を差し出した花子を見て、侑哉は本当に自分が異世界に迷いこんだのかと錯覚した。

「そのセリフ付きで握手って......」

「ん?」

 とりあえず侑哉は花子の手を握る。

「なんか『非モテの僕が異世界でツインテ美少女から告白されました』の、まりんちゃんみたいな」

「うん、そう。元々セーラー服を着てお店出てたんだけど、あのラノベのまりんちゃんて、セーラー服をアレンジしたみたいな服装じゃない? だから、あのアニメみたいなシーンを再現して欲しいってお客さんからリクエストされるの。普通はオプションなんだけどね、ともさんの甥だから特別だよ」

「営業かよ」

 侑哉は急に現実に引き戻され、思わず突っ込んでしまった。女子は怖い、そしてしたたかだ。

「女子は可愛いだけで得するよな......」

 見下したわけでなく、ただの感想として小声で言った つもりの侑哉だが、花子にはきちんと聞こえたらしい。

  可愛いピンク髪のツインテ女子・花子はチラッと侑哉を見て「顔がいいオタクは黙ってたら普通のイケメンに見えるよね」と言った。

 それははっきりとした皮肉だったが、侑哉は無表情でスルーしてる。

「なんか言い返さないの?」

 花子は、さすがにちょっと気にして聞いたが、侑哉は淡々と言う。

「たとえ周りからはイケメンと呼ばれても、現実ではラノベみたいにモテない事実を、俺は既に悟ってるから

 な」

 ああ、と花子と友義は深いため息をついた。そして花子は、侑哉の手にそっと紙を握らせる。

「サービス券......ドリンク五十円引き」

 コスプレカフェの割引券である。

 いつでも来てね! と言う花子の笑顔には、先ほどとは違う同情の色が浮かんでいた。

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