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13 食欲の秋、芸術の秋②

 侑哉の待ち受けは、先日行った旅行の際に皆で撮った写真だ。花子が自撮りでツーショットを撮ったのだが、さすがに人物写真がそれだけだと誤解を招きそうなので、観光地で五人並んだ写真を撮ってもらったのである。写真の中で、岩本はさりげなく静音の隣を陣取っている。それを見て「岩本は静音がタイプらしい」という花子の言葉を思い出した侑哉は岩本に提案した。

「静音さんなら、年齢も上だし、何か手続きするにしてもスムーズかもよ。実際に地下アイドルを呼べるかは別だけど」

「あっ......そうだよなっ! うんっ......なるほど」

 岩本が頭を前後左右にせわしなく振りながら両手を上下に動かしている。きっと静音に頼む言い方やタイミングをシミュレーションをしているのだろう、と侑哉はスマホを操作した。

 数秒ののち、コール相手が出る。花子だ。

「あ、はなちゃん? ごめんね、今大丈夫? うん、今日静音さんてシフト入ってる? うん、うん、わかった。ありがと。いや、俺じゃない。うん」

 二、三言必要なことを端的に話し、じゃあねー、と侑哉は通話を切った。

「......秋月。その、幼なじみのお兄ちゃんから数段昇格したような親密さを醸し出しといて、まだ付き合ってないとか言うのかよ」

「俺ははなちゃんと幼なじみじゃないし、第一お兄ちゃんポジションじゃない」

「じゃあなんなんだ。先輩か?」

「いや、お父さんらしい」

 はあ? と岩本が困惑した顔になる。侑哉はなぜ『お父さんみたい』と言われたかは既に忘れているが、気に入ってるので、コスプレカフェで花子の同僚に聞かれた時などたまに使うのだ。


「それはいいとして」

 侑哉は話を戻す。

「静音さん、今日は十七時からお店にいるみたいだから、聞いてみたら」

 岩本の目がきらきらと輝いた。

「はなちゃんは休みみたいだけど、岩本が行くかもしれないって言っておいてくれるってさ」

 岩本がヘッドバンキングをするように頭を勢いよく上下させる。これだけお膳立てしておけば自分は行かなくていいだろうと侑哉は思い、そのまま立ち去ろうとしたが、岩本にがっちり手を掴まれた。

「......今日、五限終わったらまた会おうな。そのまま静音さんのとこに行こう。な?」

「一人で行けよ。俺はバイトがある」

 懇願する岩本を振り切り、侑哉はその場をあとにした。


 次の日、ニイノ古書店に来た花子は、にこにこしながら定位置の椅子に座った。

「それで?」

 侑哉は最近人気が出て来た地下アイドルグループの名前を挙げる。

「たまたま大学祭の日に空いてるらしくてさ、来てもらえることになった」

 わあ、良かったねー、と花子は嬉しそうに笑う。

 侑哉も改めて礼を言った。

「はなちゃんが静音さんに言っておいてくれたからか、スムーズに話は進んだみたいだよ。あんがと」

 大学祭まであと一ヶ月あまり、会場打ち合わせなどを考えるとギリギリなため、すんなり決まったのは幸運で、侑哉は安心しきった岩本の顔を思い出した。

「グループの子たちも、アキバから近いと普段からのお客さんも来やすいからって喜んでたらしいし」

「うん。でも、静ねえがそのグループと友達っていうの、私知らなかったよ」

 それそれ、と侑哉が補足する。

「なんかさ、最初はカフェに来たお客さん経由で頼まれて、女の子たちが営業回るときに車出してたらしいんだ

 よな。そっから、いい女性運転手がいる~って口コミが広まって、いろいろなグループからたまに呼ばれてたらしいよ。ほら、機材積んだりするから大きい車が良いし」

「あー、そか。静ねえ、色々運転できるから」

 実家が整備工場である静音は、大型車やトラックも運転する。そして愛車は、ハイエースだ。

 アイドルグループの移動車の運転が女性というのは重宝されるのか、ちょっとした稼ぎになっているようだ。

 花子は、ふふっと笑う。

「岩本さん、どんな感じ?」

「ウキウキしてる」

 岩本は、レイとデートの約束(これはすぐ反古になったが)を取り付けた時と同じか、それ以上に興奮して侑哉に連絡してきたのだ。岩本個人の嬉しさもあるだろうが、大学祭というイベントに穴を開けずに済むという安堵を誰かと分かち合いたいのだろうと、侑哉もただひたすらライン通話で報告を聞いていたのである。

「まだ詳細は決まってないけどさ。よかったらはなちゃんも来てよ、大学祭」

「うん。行きたい。でも侑哉は何もやらないんでしょ?」

 うーん、と侑哉もうなる。侑哉にとっても初めての大学祭だ。サークルに所属していないので、外部の人と同じように客として参加する気楽さと、寂しさも少しある。

 そこへ、友善が銀行から帰ってきた。二人から話をざっくり聞くと、あっさり言った。

「なんだ、一緒に行けばいいじゃないの。はなちゃんだって行きやすいだろう」

 至極まっとうなアドバイスだ。それでも、常日頃付き合ってると誤解されるくらい仲の良い花子と一緒にいるのを、もし自分に思いを寄せている子が見たら......と、そこまで考えて「漫画じゃあるまいし」と侑哉は虚しくなった。そしてやはり、今回のイベント手配で花子には間に入ってもらっているわけだし、ここは自分が率先して連れていくべきか、と侑哉も考える。悩んでいる侑哉の前で、花子は首をかしげツインテールに指を絡ませポーズをとる。

「ユウヤ、連れて行ってくれる?」

 侑哉は、じとっと花子を見た。

「そのまりんちゃんスタイルはやめてくれ。おじさんじゃダメなの?」

「うん、俺より侑哉が適任だなあ」

 ため息をつきながらも、仕方ないと侑哉は了承した。

 やったー! と花子は喜んでいる。

「良かったな、はなちゃん」

「うん、ともさんにお願いしたら、なんか変な関係に見られちゃうもんね」

「それな~。去年危うく通報されそうになったもんなー」

「え......そうなんだ......」

 若干ひき気味の侑哉を意に介さず、「ねーっ」と友善 と花子は明るく笑っている。なるほど、適材適所というのはあるものだが、曲がりなりにも地域に根差した古書店の店長が変質者扱いとは、ちょっと友義が気の毒になった侑哉であった。


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