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13 食欲の秋、芸術の秋①

ここから第三章です。

 秋といえば、読書、食欲、そして芸術。この日侑哉は、パーカー・Gパン・スニーカーという定番服で、講義の空き時間に中庭のベンチで一人、コンビニのあんまんを食べていた。人はまばらで、閑散としたこの場所は侑哉のお気に入りだ。

 だが、その静寂を邪魔した者がいた。


「大学祭実行委員?」

 隠密のように侑哉の隣にささっとやってきて囁いたのは岩本である。こちらも変わらず、シャツにGパン姿で、黒髪を作為的な無造作ヘアにしている。

「そうなんだよ」

 岩本は、黒縁眼鏡をわざとらしく指で上げてポーズを取った。

「誰が」

「俺が」

 侑哉の興味なさそうな返しにも、ややタメを作って返事をした岩本は、座ったままちょっと斜めを向き、なぜか通路を歩く他の学生たちを見ている。通りがかった女子が、岩本と目が合ってしまったようでひきつった顔で目を逸らす。侑哉は同類と思われた可能性を否定できず、溜め息をついた。

「で。なんちゃらサークルじゃなかったのか。なんかテニスとかスキーとかやるやつ」

「それも在籍してる。けどな、大学に大きなイベントがあるなら、主催側に回ってみたいと思うだろ?」

「いや、思わない」

 即答する侑哉に、岩本は「つれないな」と肩をすくめる。もともと侑哉は、一人でひっそりと漫画やラノベを読んでいるのが好きなのだ。文化祭はまあまあ好きだし参加するのは構わないのだが、高一のときにミスコンに無理矢理参加させられ、それを見に来ていた母親と弟に見られたのは成層圏の彼方に消し去りたい思い出だ。ちなみに侑哉は男子校出身である。


 暗い過去を、頭を振って強制的に消し去ると、侑哉は気を取り直して岩本に聞く。

「それで? 岩本がなんかやるなら、サクラで見に行くからタイムテーブル教えてくれれば」

「いや、俺は主催側だっての。それにサクラって決めつけるのはどうよ? いかにも客の入りが悪いショボい企画しか出来ないみたいじゃね?」

「違うのか」

「違う。てか、違うはず......だったんだよ、昨日までは」

 侑哉が岩本から話を聞いてみると、どうやら二日間ある大学祭の初日に、デビューしたての女性グループを呼んでライブを開催する予定だったらしい。しかし、おとといそのグループが所属する事務所でトラブルがあったとニュースがあり、事務所に確認をしたりなんだり色々あった結果、出演キャンセルとなったのだ。

 初めての実行委員で張り切っていた岩本の落胆は、侑哉も想像できた。肩を叩くと、「ありがとう」と手を重ねられ、慌てて手をひっこめる。

「まだ学外向けポスターを作ってなかったからマシだけど、すっぽり抜けた穴をどうしようかってさー、悩んでさー、それでさー」

 ふむふむ、と侑哉は相づちをうちながら、コンビニ袋から肉まんを取り出した。それを頬張りながら、鞄から出したラノベを読み始める。

「地下アイドルを、呼べないかなって」

 ん? と侑哉は顔をあげた。岩本はちょっと気持ち悪い上目遣いで侑哉を見ている。

「呼べば?」

 侑哉はそれだけ言ってまた本に視線を戻した。

「いや、だからさ」

 岩本は食い下がる。

「花子ちゃん経由でさあー、どうにかならないかなー、ギャラ出るしさー」

 はあ、と侑哉はわざと大きく息を吐く。

「じゃあ、はなちゃんに直接頼めばいいじゃん。俺は別に実行委員会じゃないし。俺が間に入ったら面倒だろ」

 侑哉はあしらうが、そもそも花子も別に地下アイドルのマネジメントをしているわけではないし、第一、17歳という、大きな契約がからむ場合には親の同意が必要な年齢なのだ。

「だからさ、ちょっと口きいてもらえないかな? って。はなちゃん知り合い多いしさ」

「それこそ高校生にタダ働きさせるようなもんだろ。間に入ればはなちゃんの名前を大学側に出さなきゃならないだろうし」

「うーん、まあ、そうか......」

 花子が高校に通わず社会人として働いていても、そこは年長者として守らなければならない、と弟がいる侑哉は感じている。

 岩本は正論を言われてガックリと項垂れた。


「でもよくやるよな。俺には無理だ、そういうの」

 もともと人前で何かすることも苦手な侑哉は、たいてい裏方で指示されたことをこなすほうが向いているので、岩本の行動力には感心する。

「いやあ、学生のうちくらいさ......ってか、東京にいる間にいろいろやっとこうと思って。ほら俺、浪人もしてるし」

 そう言いながら岩本は、なにかいい案がないかスマホで検索している。その時、侑哉のスマホが鳴った。次の講義に遅刻しないようタイマーをかけていたのだが、待ち受け画面を見て侑哉はふとあることを思いついた。

「静音さんに聞けば」

「え?」

 岩本がすごい勢いよく侑哉を見た。

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