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11 忘れがたきホームタウン②

 再びリフトに乗り、ロープウェイを乗り継ぎ山を降りる。岩本は花子のはからいで静音とペアでリフトに乗ることができ、上機嫌だ。

「お姉さんがいるっていうから、姉御な静ねえが相性いいかなと思って」とは花子の談だが、なるほどと思いながらも、弟しかいない侑哉にはいまいちピンとこない。


 平地に戻った侑哉たちは、岩本の案内で地元観光を満喫する。果物農園で桃狩りをしたあと川遊びができる場所に移動し、皆で童心に帰ったようにはしゃいでたが、 岩本が言うには、「子供の頃より大きくなってからのほうが楽しい」らしい。時期的に、家族連れより友達同士らしきグループを多く見るからかと侑哉は思ったが、言われてみれば、自発的にこういうレジャーを選んで来ている人ばかりなのだ。

「俺も、東京行ってから無性に川遊びとかしたくなるんだけどさ。なんだろうなー。当たり前すぎると気付かないからかな」

 そう言いながら、岩本は平たい石を拾って川に投げる。

 ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ、ときれいに川面を切って跳ねたあと、ぽちゃんと沈んだ石を見て侑哉は感心した。

「上手いな」

「モブキャラの俺にとって、アウトドアは数少ない見せ場だからな。普段から見た目で得するやつにはわからないだろ」

 わかってないな、と侑哉はうつむき加減で首を振る。

「見かけ倒しより良いだろ」

 とても実感のこもった侑哉の言い方に、岩本は大笑いした。


「ねえねえ、石投げるやつ! できる?」

 膝下までの浅瀬で水遊びをしていた花子が、裸足のままで侑哉のもとにやってきた。静音といずみは、花子の分までサンダルを持って追いかけてくる。

 いや、俺は......と躊躇する侑哉を尻目に、岩本はここぞとばかり水切りをし、女子たちどころか小さいお子さま達からもモテ始めていた。

「いいなあー」

 いずみが羨ましそうに言うので、侑哉は聞きとりやすいという右耳側から声をかける。

「水切りが?」

「子供と遊ぶのが。私、耳が聞こえづらいから保育士諦めたんだ。短大で資格は取ったんだけど」

「ああ......」

 専門職にどのくらい制約があるかはわからないが、いずみなりに考えてのことだったのだろう。何も言えず侑哉が黙っていると、いずみは石を拾いあげ、水面に投げる。石は、ひゅっ、ひゅっ、と二回水面でジャンプして、最後は綺麗な飛沫をあげて沈んだ。

「でも、子供と接する機会は、別に保育園や幼稚園じゃなくてもいいんだもんね......うん」

 水切りをしたのが若い女性だからか、幼児連れの母親がいずみの近くにやってきた。お上手ですね、などと他愛ない会話がはずむ。


 保育士として現在仕事をしていなくても、話しかけやすい空気を醸し出しているのかもしれない。

 花子も静音も、そしていずみも、二次元の格好に身を 包みながら仕事をしているが、中身は驚くほど地に足がついている。侑哉は改めて、岩本を見た。身なりばかり気にしてるようで、中身はなかなか男前なのだ。


「......なんだよ?」

「いや......いい友達ができて良かったな、なんて」

 わざとセリフのように冗談めかして言った侑哉だが、岩本は「気色悪い」などと連れない反応をして逃げようとする。侑哉は追いかけてじゃれついたが、その二人に向けて静音がスマホのカメラを構えてることに気付き、眉をひそめた。

「......何やってんすか?」

「いやぁ、腐女子の友達が喜ぶかなって」

「やめてください......」

 本気で嫌がる男子二人に、いずみと花子も笑う。そして、温泉旅行2日目も、平和に楽しく過ぎていったのであった。


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