表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

孤独なピエロ

作者: 星群彩佳

女として生まれて17年間、わたしは真面目に生きてきた。


真面目なのが1番。


おかげで友人も多いし、両親や先生方の信頼も厚い。


勉強だって、スポーツだって得意になれる。


ヘタに目立ったって、良いことなんてない。


その性格のせいか、何故かピエロが大嫌いだった。


キッカケは本でピエロの存在を知ってから。


ストーリーはよく覚えていないけれど、笑われるだけの存在だというところに、嫌悪を覚えた。


それからはテレビで見るのもダメ。


言葉として見たり聞いたりするのもダメになった。


なのに…ここ最近、私の住む街ではピエロのウワサが流れている。


深夜遅くになると、ピエロが街の中に現れる。


陽気な歌を歌いながら。


…ところがそのピエロを見た者は、殺されるらしい。


ピエロは草刈鎌を両手に持っており、見た者を襲い掛かるという。


その話を警察に勤めている父から聞いた時、全身に悪寒が走った。


薄気味悪いっ…!


しかし警察がいくら巡回しても、ピエロは見つからない。


とび抜けた運動神経を持っているらしく、見かけても素早い動きに誰も追いつけない。


物騒なことが続く中、街にはサーカス団が訪れた。


あまりのタイミングのよさに、警察は目をつけた。


ところがそのサーカス団には、ピエロという存在はいなかった。


団員達もいないことを説明し、ここに来る前の地域にも確認は取れたらしい。


なのでサーカス団は、1ヵ月この街で営業する許可を得た。


元々娯楽の少ない街だったので、サーカス団はあっという間に人気が出た。


でもわたしはキライ…というか、苦手だった。


ピエロがいなくても、サーカスという存在も何となく…。


だけど不思議なことも起こった。


ピエロが発見されなくなったのだ。


安心できる反面、サーカス団が怪しくなった。


やっぱりピエロとサーカスという存在は、つながっているのだろうか?


モヤモヤした気分が、心を占める。


そんなある日。


父が気分転換に、家族でサーカスを見に行こうと言い出した。


最近ピエロが現れないので、ほっとしたのだろう。


でもわたしはイヤだと言えなかった。


父のことを尊敬していたし、父がわたしを大切に思っているのを知っているからだ。


しぶしぶ見に行った。


サーカスは人気の理由が分かるほど、素晴らしい技術を披露してくれた。


けれど…わたしの心は晴れない。


やがて若い青年が、最後の挨拶に出てきた。


彼は団長らしい。


もうすぐ一ヶ月が終わることを、心寂しいと言っていた。


だけど…。


「それでも新たな団員を迎えられそうなので、とても嬉しいです」


と、笑顔で言った。


その途端、わたしの体にかつて無いほどの戦慄が走り抜けた。


まるで電気を浴びたような衝撃で、わたしは息をすることを忘れてしまった。


そのせいか、その夜見た夢は、悪夢だった。


深夜、寝静まった街中を、一人のピエロが歌いながら歩いている。


―両手に鎌を持ちながら。


孤独なピエロは陽気に歌う。


しかし、サーカス団近くの川原に来た時、様子が一変した。


真っ白顔には、笑顔の化粧がされていた。


けれどその体からは、異様な殺気が出始めた。


何故なら、ピエロの目の前に、昼間見たサーカス団員達がいたからだ。


「今晩は、ピエロ」


団長が笑顔で話しかけた。



しかしピエロは構えて、団員達に切りかかった。


ところが流石はサーカス団。軽い身のこなしで、ピエロの攻撃を避けた。


まるでカマイタチのようなピエロの攻撃を避けても、そっちからは攻撃してこない。


だが、団長の手には小型のナイフが握られた。


ヒュッ!


ピエロよりも早い動きで、ナイフが動く。


するとピエロの腕から血が飛び出した。


ピエロの雰囲気が変わる。


「ちょっとお話があるんですが、聞いてくれませんかね? 私達はあなたを迎えに来たんですよ」


しかしピエロは姿勢を低くし、突如走り出した。


風を切るほどの素早い逃走に、サーカス団員も追いかけようとしたが…。


「お止めなさい。追い詰めたところで、何にもなりませんよ」


団長の一言で、団員達は動きを止めた。


「ピエロは我がサーカス団に来ますよ。…必ずね」


ナイフに付いた血をベロッと舐めて、団長は笑った。


…そこで夢は終わった。


ところが。


朝起きて、わたしは腕の痛みに気付いた。


腕を上げて見て…心臓が止まるかと思った。


パジャマに血が滲んでいた。


恐る恐るパジャマを捲ると…まるでナイフで切られたような傷が、現れた。


「…っ!?」


声にならない悲鳴が、口から飛び出した。


何…何なの!?


何でこんな傷があるの?



その日は学校を休んだ。


具合が悪いと母に言って、部屋の中に閉じこもっていた。


傷の手当はした。


けれど…いつケガをしたかなんて、覚えていない。


昨夜は疲れて、すぐに休んだハズだ。


なのにっ!


わたしはため息をついた。


いろいろと疲れているのかもしれない。


しかし俯いた時、床の異変に気付いた。


拭ってはあるけど…血の跡がある。


血の跡は、クローゼットに続いている。


わたしは震えながらクローゼットに近付いて、開けた。




そこには―






ピエロの衣装と化粧品、鎌が2本、あった。



目の前が、絶望で真っ暗になった。


「何っ何でっ…どーして!?」


ガタガタと体が震える。


おかしい! 変だ! これじゃあまるでっ…


「ピエロは…わたし、なの?」


夜な夜な街の中を歩き、そして…人を殺してきた。


信じたくは無い!


誰かウソだって、言って!






―真相は、あのサーカス団の団長が知っている気がした。


何故そう思ったのかは分からない。


でも…確か今日が最終日。


わたしは夕闇に沈む街を見ながら、立ち上がった。



深夜、わたしはサーカス団に来ていた。


静まり返ったサーカス団の前、何故だか入り口は開いていた。


わたしは中に入った。


すると舞台には、団長が笑顔で立っていた。


「ようこそ! 我がサーカス団へ。いらっしゃってくれると思っていましたよ。ピエロ」


「なっんで…」


フラつきながら、わたしは舞台に近寄った。


「おや? お気付きではなかったのですか? あなたは理性と狂気を兼ね備えたお方。昼間は理性の顔が、そして夜には狂気の姿が現れるんですよ」


ああ…そうだった。


言われて気付けた。


昼間は真面目な女子高校生。


夜はおかしなピエロ。


それが、わたし。



…本当は苦痛だった。真面目に生きることが。


勉強も運動も、人付き合いにもウンザリしていた。


そのストレスが、わたし自身が1番嫌悪しているピエロに変身させたんだった。


急にスッと頭が冴えた。


わたしは真っ直ぐに団長を見つめた。


「―それで? わたしに何の用なの?」


「もちろん、あなたを我がサーカス団にお迎えしたいと思っています。我がサーカス団には、残念ながらまだピエロと言う存在がありません。ぜひ、ウチへ来ていただけませんか?」


わたしは腕を組み、ため息をついた。


「殺人犯であるピエロを?」


「ええ! 何せ我がサーカス団員達は、そのものの存在にしかなれぬ者達しか集まりません。あなたもしかり、ですよ?」


―なるほど。一理ある。


ピエロであるわたしは、ピエロになれる。


狂気を強く持っているから。



―翌日、街からサーカス団が消えた。


そして同じく一人の少女が失踪し、ピエロも街に現れなくなった。


やがて、街から遠く離れた土地で、サーカス団は営業を始めた。


そこにはピエロの姿もあった。


2本の鎌を操り、滑稽な演技をするピエロは、たちまちサーカス団の人気者になった。


しかし殺人事件は起きない。


自分の居場所と、本当の姿を見つけたピエロは、もう孤独じゃない。


だから安心して、ピエロになれる。


わたしは。










―あなたは、どう?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言]  どんでん返しと、ハッピー?エンド。  素敵なホラーですね。ゴア描写がほぼないこともあって童話を読んだような読後感を覚えました。  旅のサーカス団には華やかさの裏に哀愁と薄気味悪さがあって、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ