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成績



「皆さん、抜き打ちテストの成績順位表、確認されましたか?成績はいかがでしたか?」

「あ、星城さん……。私は、まあまあって感じかな」

「そうでしたか。あ、良ければもう少し成績についてお話しませんか」

「え?」

「というのもですね、難しかった問題について文句を言い合ったり、『負けた、悔しー』とか青春漫画のようなやり取りをしてみたいのです」

「え?漫画のような?えっと、よく分かんないんだけど……。ってか、うちらもう行くね。バイバイ」


固まっていた何人かの女子生徒に話しかけたはいいものの、渋い顔をして避けられてしまったマリンがぽつんと教室に取り残された。


おうみは彼女らの様子を視界の端に捉えていたが、勿論何とも思わない。

殲滅対象でしかない人間が何をしていようと、おうみには関係ない。

しかし一つだけ、ピンときたものがあった。


マリンが言った、抜き打ちテストの成績順位表だ。


順位というものがなんとなく気になったおうみは廊下に出た。

テスト成績順位表は、少し先の掲示板に張り出されている。


抜き打ち五科目テストは、進学校であるこの伊瀬改高校では伝統のびっくりテストであり、つい一週間前にゲリラ的に行われた。

慌てふためく生徒もいたが、勿論緊張することなど知らないおうみは余裕綽々だった。


心配そうな顔をしながら成績順位表を眺めている何人かの生徒たちの間に入り、おうみは成績順位表を見上げた。


左上の1位という数字の横を見てみる。

一位とは頂点という言う意味だ。

全てを統べる魔王に相応しい、唯一の数字。


だがその数字の横には、「有志ヤツメ」と書かれていた。

そしてその下に2位という数字があって、「星城マリン」と名前がある。

そしておうみの名前ははるか下の方。

言うなれば最下位だ。


「……」


しかし、これは当然の結果である。

人間の知識など下等すぎると一蹴し、すべて白紙で出したおうみが最下位に来るのは、水が低い方へ落ちるのと同じように当たり前のことだ。


「横嶋さん、成績順位表見てるの?」


おうみが大判の紙の一番右下に雑に置かれた自分の名前を見つめていると、後から馴れ馴れしい声がしたので、おうみはハッと振り向いた。


そこに立っていたのは、長身で爽やかな男子生徒。


「有志ヤツメ……」


唸るような声を出す。

おうみは猛犬のように睨みつけるが、ヤツメは微笑を絶やさないままおうみの隣に立った。

そして成績順位表を上からざっと読み流した。


「あれ、横嶋さん最下位だ」

「わ、わしが無能な人間の作ったテストなど解いてやる訳が無いだろう?!わしは最強の魔王なのだから、こんなもの学ぶ意味も無いし答える価値も無い!時間の無駄だ。下等な人間の作ったルールを答えるだけのテストなど、本来であればあほらしすぎて欠伸がでる程なのだ!だから白紙で出してやった。貴様はそんなことも分からんのか」

「え?白紙で出したの?!そっか、だから僕を抜かして新入生代表の挨拶をした筈の横嶋さんが最下位だったんだね」


ヤツメは納得したような顔をした。

おうみはその横顔を隣で見ていたが、イラっとしてチッと舌打ちをした。


「人間の下等な知識など、わしには必要ない。しかし貴様の名前がわしの名前の上にあるというのはすこぶる気分が良くない」

「そうなの?」


身長の高いヤツメに見降ろされて、おうみは益々腹が立った。

千年前は勇者と魔王、どちらも身長が高くて視線は同じほどだったのに、今の女子高生の身体はか弱く細いだけでなく、こじんまりとしている。


「だが次のテストで、貴様は地獄を見る事になるだろう。二か月後、それが貴様の墓場だ。笑っていられるのも今のうちだ」

「うん、勉強頑張るって事かな?」

「阿呆め。わしが頑張るなんて愚かな真似をするわけないだろう。わしは人間とは違って完璧な存在だ。解答用紙に書くだけですべてが意のままだ」

「でも、分からないところがあったら僕に聞いてもいいからね」

「誰が聞くか。下等生物に教えを乞う疑問などわしにはない」


おうみはヤツメを全力で睨んだのち、くるりと踵を返した。

そして「次は必ず貴様を葬り去ってやる」と吐き捨てて、大股でその場から去った。


まだ魔法は使えるようにはならないし、女子高生の身体は軟弱で思うように動かない。

だが、おうみは魔王だ。


魔王は膨大な魔力だけでなく、どんな生物にも勝る身体能力、千年を生きる強靭な肉体、それから人間などの小さな脳みそには到底理解できないようなハイスペックな頭脳を持っていた。

魔王はどんな生物よりも高等な頂点の存在なのだ。それを、勇者に思い知らせてやらなくては。





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