表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

地区予選6



さてさて、競技に戻ると、先頭争いに入れなかったチームも次々にアンカーにバトンが渡っていく!

注目すべきチームはよう見当たらんけど、各チーム、出来るだけ良いタイム出して全体の上位8位に食い込みたいってとこやろな!

どのチームもよう頑張っとるでみんな動画に残して解説したいとこやけど、Aブロックはやっぱり先頭争いに、見どころがこれでもかってくらい詰まっとるからなあ!


カメラを先頭に戻すと、鳳学園のべニちゃんが徐々にユラちゃんとの差を縮めていっとる!

差を詰めていっとる?差を詰めていっとるって自分で言って「え?」ってなったわ。

あのユラちゃん相手に「差を詰めていっとる」?


べニちゃんは一年生やで僕も全然知らん選手やったわけやけど、走りを見るに、すごい貫禄あるな。

ありゃ絶対超経験者やわ。

走りのフォームもこれでもかってくらい綺麗やし、長い手足を存分に生かした大股の足運びと腕の振り方はもうお手本レベルやな。

一年生の癖に、既に覇者っぽい雰囲気出とるわ。こりゃもしかしたらもしかしてがあるかもやで!大逆転、有り得るかもやで!


「常勝無敗。それが私たち鳳学園。たとえ地区予選でも負けるわけにはいかない」



一方の戒壇高校のアンカーを走る天狗山ユラは、去年も大会でリレーを走った実力お墨付き選手!

しなやかでお淑やか、でも勿論速い!!

ユラちゃんの重心低めで前のめりな独特なフォームは、兎に角スピードの安定性が凄い!どんな走りで追われようと、ペースを乱さないその胆力は恐ろしい程やで!


「わたくしの目標は地区予選の優勝などではありません。今年こそは、必ず戒壇高校を全国に」



さーあ!!!盛り上がりも最高潮!!

最初のブロックから早くもクライマックス!Aブロック最終走駆、先頭を走るアンカーのユラちゃんと、それにじりじりと近付いていくべニちゃん!


この優勝候補校が二つかち合ってしまったAブロックを制したチームが、タイム的にも優勝候補筆頭に違いない!

ならばどちらが地方予選の優勝旗を勝ち取るのか!

どちらが最速タイムで地用決勝にコマを進めるのか!

強豪の鳳学園か!伝統の戒壇高校かーーーっ!



「時機到来。そろそろ、いこう」


おおおおっとおお!!!!

来た、来たで!

鳳学園/べニちゃんが動いた!

最終コーナー手前、勝負を掛けに来た!

べニちゃん、一気に加速!スピードを上げた!

コーナーのカーブでも減速する気配を見せない、その恐ろしい脚力!ユラちゃんとの差を一気に縮める強行策ーーー!!!!

速い!速い速いーーっ!!

最初から速くはあった!だけどこれはもう、猛烈!猛烈だ!これは嵐だ!まるで嵐!

ユラちゃんに迫る!あのユラちゃんに迫っていく!

そんなことが可能な選手がいたとは!しかも一年生!まだ一年生!末恐ろしすぎるーーーっ!!


その恐ろしすぎる一年生・べニちゃん、並んだ!あっという間に!なんとあのユラちゃんに並んだ!

2人の間には、数メートルの差はあったはず!

そして前を走るのは戒壇高校最速のユラちゃんなのに、それに追いつくなんて事が、起こりえるもんなのかーーっ!!?


「鷹城べニさん、でしたっけ……。あの鳳が一年生をアンカーに出して来るなんて何事かと思いましたが、まあ、それ相応の実力くらいはお持ちだったようですね」

「それはその通り。遅い人間であればチームのアンカーなど務まらないからな」

「なるほど。しかしアンカーは速いだけではいけないというのがわたくしの持論です。チームが繋いできたもの全てを結果に繋げなければ意味がありません。ですからアンカーには、食らい付いてでも一着を逃さない執念が必要です。入りたての一年生にその思いはあるのでしょうか」


ここでユラちゃん、追い付かれてピンチだったはずが、べニちゃんを置いて前に出た!

執念の天狗山ユラ、絶対に一着を他人に渡す気はないようだーーーーっ!!!

速い速い速いーーーー!!!!

もう速いとしか言いようがないくらい速いーーーっ!!!!


「このまま、ゴールさせていただきます」

「不撓不屈。貴女のその心意気、理解した。しかし私も一着を誰かに譲ることは出来ない」


ここで後れを取ったはずのべニちゃん、なんとユラちゃんを抜き返すーーーっ!!

だが間髪入れずにユラちゃんが再び前へーー!!!

なんと熱い先頭争い!恐ろしい程白熱したアンカーの戦い!

これはもう、どちらが勝ってもおかしくない!

いや、どちらかが負けるのがむしろおかしい!おかしい!もうこんなの両方優勝でええやろ!両方優勝にせん?

2人とも、みんなが一番最強や!!


だがきっとそんな提案、走る二人は絶対に受け入れんやろな!

たった一つの頂点だからこそ優勝に価値があって、その優勝の為に選手は己の全力で走るんや!

全身全霊で走りぬくんや!

ってな、僕は三年も実況解説しとるからな、ちょっとはええことも言えるようになったんやで!



さあ競技は最終の最終局面、ゴールまであと数十メートル!

鳳学園/鷹城べニ、怪壇高校/天狗山ユラ、互いに一歩も譲らず、ゴールに王手や!


果たして陸上の女神はどちらに微笑むのか!

モンスター一年生・鷹城べニか!!それとも歴戦の物の怪・天狗山ユラか!!!


勝利は!結果は!

結果はもうあと数秒の後に決まってしまう!

一瞬のスポーツ!積み重ねてきた全てを、ほんの数十秒の中で爆発させる花火のような熱いスポーツ!それが陸上競技!


果たしてどちらが!Aブロックの!勝利を掴むのか!!!

掴むのかああああああーーーーー!!!!!!

走り込んだああ!

最後のゴールラインにバトンを持った選手が今!!!


ゴーーーーー――――ル!!!!


トラックを蹴って大きくゴールラインに飛び込んだーーーー!!!!

Aブロックの最速の勝者が決まったー!!!


「ここでの勝利は次へ繋がる。一意専心、一歩づつ歩を進めるのみ」


駆け寄ってきたチームメイトに囲まれ、片手を高く上げた鷹城べニーーーー!!!!

走り切った!この800メートルをメンバーと共に!そしてその速さを知らしめた!

Aブロック最速でゴールにたどり着いたのは、鳳学園ーーーー!!!!

王者・鳳学園やでーーーー!!!!


「べニちゃあああーーーーん!!!!」

「アホな鶯原の走りも挽回して、よくやった鷹城!」

「あー、俺だって河童橋下して一着に貢献する予定だったんだけどな」


すごいすごい、ほんとうにやってくれたこのモンスター一年生!!!!

天狗山ユラを下し、Aブロック最速タイムを叩き出したーーー!!!!




「……まさか」


そしてほぼ0.5秒遅れで天狗山ユラがゴールに到達ーーーー!!!

まさかの二着ーーー!!!本人も信じられないと言ったような顔をしているーー!!


そりゃそうや!鷹城べニの勝利、天狗山ユラの敗北!これには僕もびっくりやで!

東東京高校陸上に時代が変わる波が来とるような気がする!

これからもっと面白くなるで高校陸上!


まだBブロックの競技もCブロックの競技もDブロックの競技も残っとるから、声が枯れるまで解説してくでー!

チャンネル登録良かったらよろしくー!





……



「おい」

「……」

「おい勇者、何を見ている」

「え?あ、ああ、何でもないよ」


ヤツメは眺めていたスマホの画面から目を離し、声をかけてきたおうみに小さく微笑んだ。

だが微笑まれたおうみは勿論ニコリとすることも無く、不機嫌そうにヤツメを睨んだだけだった。


「人間の分際で次わしを無視したらただではおかんからな」

「えーと、ごめんね」

「まあいい。次はわしが走るDブロックだ。貴様の目の前で全てを破壊してきてやるから、よく見ておくんだな」


ヤツメは東京地区で細々と活動している高校陸上ファンのWeTuberの動画をそっと閉じ、そういえばおうみたちリレーチームが走るDブロックは次だった、と時計を見た。


進行はおおむね予測通り。

地区決勝に進める8チームはタイム順で決まっていくが、Aブロックを制した鳳学園と、そこといい勝負をした戒壇高校が上位二校に入っている。

二つとも、良い選手の揃った良いチームだ。

彼らの地区決勝進出はもう揺らがないだろう。


「だけど、全然及ばない」


ヤツメは小さく呟いた。


「貴様、何か言ったか」

「ううん、何も言ってないよ。横嶋さん、頑張ってね」

「阿呆が。わしは頑張らずとも最強なのだぞ。偉そうに応援などするな人間の分際で」


おうみが大股でテントを出て行き、ヤツメは記録用紙の準備をしながらその後ろ姿を見送った。





さて、魔王はどんな走りを見せてくれるのか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ