地区予選4
「位置に付いて」
「用意」
パン!!!!
さあ始った!通称8駆、陸上競技の花形・リレー最初のAブロックの競技が始まったー!
僕も解説、ギア上げていくでー!!!
最初に飛び出したのは見ての通りスバル君や!
あの弾丸みたいな走り、見てみ!
スタートダッシュの瞬間!後から動画スロモで編集しようと思うけど、きっとスバル君、フライングギリギリの物凄いタイミングで飛び出しとるで!しかも何の迷いも無しに!あの子ほんとヤバいで!
相当な反射神経と集中力は勿論やけど、相当キマっとらんとあんな鋭いスタートダッシュなんて出来へん!
早速ヤバいもん見せつけられて、僕も上がってきたでーーー!!!
いけいけスバル君!
去年カガリ君に抜かれて、第二走者に一着でバトン渡してあげれんくて泣いとったスバル君はもうおらん!
ここにおるのは、あの強豪・鳳学園の先陣を今年も任される、速くなったスバル君や!
スタートダッシュのあるべき姿を体現したようなスバル君やーーー!!!
「そうだ、誰も俺にはついて来られないだろ?!」
スバル君、早くも独走状態ーーーーーーっ!
そしてそのスバル君の独壇場に辛うじて後に続くのは、スバル君と比べたら出遅れたと言わざるを得ない只野学園、藻武高校、NPC学園!
河童橋カガリはというと、おおっと、最下位だー!
カガリ君、最下位を走っているー!
「いや、河童橋は必ず来る。もっと差をつける」
その間にスバル君は、飛ばす飛ばす!
まるで、チームの道を貫き拓くための一番槍!
小さい体で空気を切り裂く燕の如く、飛ぶように走るーーーーー!
誰よりも早く、誰よりも先にバトンを次へ繋ぐ、それが強豪・鳳学園の第一走者を任された小燕スバルーー!!!
鳳学園/第二走者の孔雀丸シオンが早くもバトンゾーンに誘導されとる。
鳳学園/子燕スバルが先頭を走っとるんやから、それは当たり前やんな!
しかし、孔雀丸シオンに続いてバトンゾーンに誘導されているのは何と、怪壇高校/第二走者の時鵺ホムラ!
ということは、ということは…………っっ!
現在一着の位置で走っているスバル君に破竹の勢いで追いついてきたのは、河童橋カガリ、カガリ君だーっ!!!!
独走状態だったスバル君に追い付ける者がいるとすればそれは!河童橋カガリをおいて他にはいないーーー!!!!
カガリ君、スバル君に迫る!迫る!!
スバル君、逃げる、逃げる!!
まだスバル君が速い!スバル君が先頭だ!先頭だが!その差は!縮まって!縮まっとるーー!!
まだ第一走者の時点であるにもかかわらず!これはもはやアンカーの優勝争いと言っても過言では無いほどの順位争い!
スバル君、逃げ切れるか!まるで化け物の如く追い上げてきたカガリ君から逃げ切れるんか?!
前を走る選手を濁流の如く飲み込み、今やスバル君にも届こうとしている!河童橋カガリの!猛追走やーーーー!!!
「スバル君、つーかまえた」
「やっと来たか」
「なーんだ、あんまり怖がってくれないんだね」
「去年も見たんだから、もうびっくりしねえよ」
「そっかー、びっくりしてくれないなら、せめて悔しがってほしーなあ」
「は、もう悔しい思いはしねえ。しねえよ」
スロースターター河童橋カガリ、あの爆発力で前を走っていた小燕スバルと並んだああああ!
しかし!まだ勝負はついていない!
双方スピードを上げる!
まだスピードを上げる?!ここに来てまだスピードを上げられるのか?!
速い、スバル君速い!カガリ君速い!
誰よりも速くチームの道を拓くのは第一走者の役目!!負けられない!
しかしあれだけあった距離の差を簡単にねじ伏せる!河童橋カガリ、速い!いや速いを通り越して恐ろしい!さすが戒壇高校、やばすぎる!やばい!怖い!!!!
しかし小燕スバル、簡単に前は譲らない!先着は譲れない!去年の雪辱、忘れるわけにはいかない!二度とライバルに負けるわけにはいかない!走れ、飛べ、第二走者にバトンを渡せ、誰よりも先に!
河童橋カガリ、スパートをかけた!小燕スバルを抜くか、抜くか、抜くかー!?
それとも小燕スバル、踏ん張るか、踏ん張るかーー?!
「スバル君、もう後半攻める力残ってないでしょ」
「見くびんなよ。俺は後半も粘れるように、今までずっと走り込んできたんだよ」
「……確かに去年より全然スピード落ちてないね。でも、走り込んできたのは僕も一緒だよ」
来た!バトンゾーンに突っ込んだ!
スバル君とカガリ君、2人とも容赦なくバトンゾーンに突っ込んだ!
渡った!!バトンが第二走者へ渡った!!!
どちらが先だ?どちらが先だった?!
カガリ君が、カガリ君が一歩分だけ先にバトンゾーンに踏み込んだように見えた!
スバル君は一歩分だけ、リードを許してしまったように見えた!!
カガリ君、スバル君、どちらも良く走った!しかし第一走駆、制したのはカガリ君だーーーー!!!!
「はーい。どうぞ、ホムラちゃん先輩」
「よくやったカガ丸!あとでたくさん褒めてあげっからね」
そしてカガリ君は踏み込んでそのまま走り抜き、それに合わせた時鵺ホムラへ見事なバトンパス!!
濁流の様に猛烈に追い上げた走りとは違い、流れるような摩擦のないバトンパス!!
走り切った選手の心意気を次に繋げる正確無比なバトンパス!
これが、怪壇高校が強豪校たるゆえん!怪壇高校が強者であるゆえんなんやーー!
「ごめん、抜かれた」
「大丈夫だよ。よく頑張ったね、スバル」
鳳学園のバトンが第二走者へ渡る!
鳳学園/第二走者の孔雀丸シオン、小燕スバルをねぎらってバトンを受け取るーー!
後は任せろと!その顔に書いてある!どれだけ個々が速くても!チームが速くなければ勝つことは出来ない!しかしバトンを繋ぐ個々の走りが、思いが、チームの速さに変わる!それがこのリレーという競技なんやでーーー!!!!
さあ走り出した第二走駆!彼らはどんな走りを見せてくれるんやろか!
先頭を走るのはカガリ君からバトンを託された怪壇高校/3年生/第二走者の時鵺ホムラ!
そして続くはスバル君からバトンを受け継いだ鳳学園/3年生/第二走者の孔雀丸シオン!
ホムラちゃんは幾つも入ったカラフルなメッシュが可愛い女の子、シオン君の方は顔まわりの三つ編みと蛍光カラーがイカした男の子で、ここは図らずもお洒落さん対決にもなっているようやでー!
「君、僕より目立つことはしない方がいいんじゃないかな」
「はあー?もしかしてあんた、あーしが可愛いから嫉妬してるってか?」
「嫉妬なんて醜い感情は持ち合わせていないさ。でもそうだな、派手さでも速さでも誰にも負けたくないって気持ちはあるね」
「へえー、っぱイケメンって負けず嫌いなんだ」
「そうだね。負けるのは嫌いだよ。だって勝つことが最も美しいことだからね」
「……ってあれ?あんたよく見たら言うほどイケメンでもねーわ。雰囲気イケメンってやつ?ね、化粧とったらどんな顔になんの?」
「……」
カガリ君が一着で渡したバトンを持って走るホムラちゃんだが、無言でブチ切れた様子のシオン君がもう並んでしまったー!
2年連続鳳学園でリレーを走ってきたのはこのエリート、孔雀丸シオン!!速い!速い!速いーーーー!!!!!
やっぱりリレーの選手は速さ!顔がどうこうなんかよりも何よりも速さ!!
ほら、足が速ければ問答無用でモテるんやで!!シオン君がかっこいいのは間違いないから!モテそうなのは間違いないから!!!!頑張れーっ!!!
「あーしもさ、負けず嫌いなんだよねー。一番可愛のも一番速いのも、一番目モテるのもあーしがいい。だからここであーしがあんたを大きく引き離したら最高ヤバたん丸じゃね」
「最高ヤバたん丸……?」
「あー、なに?もしかしてダサいとか思った感じ?!うわっ、感じ悪!ってか最悪!もー絶対あんたとは友達になれないわ。それ決定!」
「それで別に全く構わないよ。僕も弱い選手の相手はいつまでもしていられないからね」
はいはいはいはいーーシオンくんが涼しい顔して加速したーーー!!!!
並んでいた筈のホムラちゃんの前に出て、しっかりと内側のポジションを確保ーー!
鳳学園の観客席も、選手が先頭に躍り出たことで大いに沸いているー!
しかも、客席にチラホラ見えるお洒落な女子は、孔雀丸団扇を持って声援を送っているようだー!
やだシオン君、ちょっとしたアイドルやないですか!
僕3年目のWeTuberですけど、あんな団扇持って応援されたことなんてないわ!夢のまた夢やわ!羨ましすぎるわ!
……と、話しが逸れましたが、レースの方はシオン君が先頭をキープ!そしてホムラちゃんがその後に続いている!
しかしあの強豪・怪壇高校でリレー選手の座を勝ち取り、カガリ君から一着で受け取ったバトンを持って走るホムラちゃんがこのまま大人しく引き下がる訳が無い!
そうやろ?!
ホムラちゃんは去年は控えとして、大会ではリレーに出られなかった!やけど、今年は念願のリレー出場なんや!そのホムラちゃんが、このままで終わるはずがない!
悔しくても挫折しそうでも、三年間ずっとリレーで走るために練習してきたはずや!ここで意地を見せな、いつ見せるんや、ホムラちゃん!!
「やっぱ鳳学園、ヤバ速だわ。でもだからこそ、あーしの追い上げピュンピュン丸が光るってもんよ」
ん!?ホムラちゃんの様子が……。急にスピードが落ちた?!
い、いや!!!!次はスピードが上がった!!!
でもまたスピードがちょっと落ちた?!
うーーーーん、何だこの緩急が付いた走り方はーーー??!!
特殊な呼吸方法なのか?!それとも歩幅?!よく分からないが!得体が知れないが!しかしシオン君との差は!何故か確実に!縮まってきているーーーっ!
すごい、すごいすごいすごいーーーーっ!!!
走るフォームを変更したホムラちゃん、更に速いーーーっ!!!!
最初は変な走り方だと思ったけど!やっぱり鳳学園でリレーの選手に選抜される実力は伊達じゃない!
ホムラちゃん、前を走るシオン君に、なんと、追い付いたーーー!!!!!
「おまたー!可愛くて速い最近流行りのホムラちゃんでっす」
「追いつかれた……?あれだけ引き離したのに?」
「そうそう、あれだけ引き離されてたのに、追い付いちゃった。すごいっしょ。あんたが息吸う瞬間、ちょっとスピードが落ちる瞬間狙って加速繰り返したら、こーやって楽勝に追い付けちゃうってわけ」
「は……?」
「ほら、格闘技とかでも相手の隙見て急所狙って攻撃するじゃん。あれとおんなじ」
「また戒壇高校のやつは妙なことを……」
「ま、これをやろうと思ったら相手を見なきゃいけないから、あーしは暫く後ろを走らなきゃいけなくなるんだけど……。あんたみたいな正統派に速い選手は、あーしが相手しろって顧問からも言われてるからさあ」
ホムラちゃん、横に並んだシオン君にウインクをお見舞いだーー!!
可愛え!ホムラちゃんの可愛い顔はバッチリ動画に収めたったで!
これで今日のグッドボタン数伸びるといいけど!けど!シオン君は冷たい顔のままだーーー!!
「なるほどね。でも、君の妖しげな小細工に屈する程度なら、僕は正統派などとは呼ばれないさ」
「およ?」
「リレーにおいて、他の追随を許さない速さは大切さ。だけど、それ以外にも200メートルを走り切る体力、どこで誰を抜きどこでスパートをかける間の判断力、ミスのないバトンパスの技術。そして君のような予想外の事態にも対応できる機転。勝利への全てが美しく揃っているからこそ、正統派なんだ」
ここで!まさかの加速!シオン君がまた加速したーー!シオン君、まだ余力があったのかーーー!!!!!
更に加速ができるなんて、聞いてない!聞いてないぞーー!!!!
まだ体力を温存していたなんて、そんな判断をしていたなんて、聞いてないーーーっ!!!!
「勝利とは、全てを過不足なく揃えた美しさのこと。相手の隙を突かねば覆せない勝利など美しくも何でもないんだよ」
「ちょっ……!まじかっ」
ホムラちゃんが再び引き離された!予想外の特殊能力を使って追いついたのに、またしても引き離されてしまった!!
バトンゾーンはもう目の前!!!!
そしてもちろん、一番内側のレーンで準備をしているのはシオン君を待つ、鳳学園/3年生/鶯原リリカ!
飛び込むか、シオン君が真っ先に飛び込むのか!
シオン君が、このままホムラちゃんを置き去りにしたまま駆け抜けるのかーー!!!!