プロローグ ―バッドエンドに向けて―
ついにこの時が来た。
そう、その人物はほくそ笑む。
目の前に聳え立っている館は、懐かしさを抱かせてくれる。しかし、前向きな気持ちは浮かんでこなかった。今にも顔が歪みそうになるのをぐっと堪えて、その人物は一度目を伏せた。
目を閉じると、嫌というほどに、その光景が鮮明に浮かび上がってくる。
けれども、思い出させてくれるのは、ありがたくもあった。
躊躇いなく、目的を果たせそうだ。
ゆっくりと瞼を持ち上げて、その人物は深呼吸をした。
少しずつだが、落ち着きを取り戻せている。
恐れることはない。ただ、自身にされたことを返してやるだけだ。
けして、間違いではない。自身がやりたいことを、やるべきだと思うことを実行するだけ。
そう自分自身に言い聞かせながら、もう一度だけ深呼吸を繰り返す。
一体、どのような結末を迎えるのか。それは誰にも分からない。
誰もが喜ぶハッピーエンド?
誰もが悲しむバッドエンド?
はたまた、望まない結末の物語?
これは、誰にとっての物語なのだろうか。
考えながら、その人物は口の端を持ち上げる。すると、悩みが薄れていくような気がした。
きっとこの物語は、自身にとって幸せな結末が待っていると、確信したからだ。
「ただいま」
小さく呟いて、館の玄関のドアノブに手を伸ばした。
これは、誰かのための物語。
誰かが幸せな死を迎えるための、最悪の物語である。