第一話 「動き出す夢」――⑦
ビームダガー。
通常のビームソードの刃を最小限にとどめ、出力器も小型化することで軽量化。
取り回しをよくするだけでなく、視認性を低くしてビームの曳光が見えにくくなる奇襲用のオプションが付属している。まさに、建物の陰や視界の外からの奇襲で敵機を撃破するコンセプトの武器だ。
但し、奇襲を看破することができれば、それはただの直線的・単調的な攻撃に過ぎない。
問題は、軽量化由来の速さのみ。
相手は建物の切断モーションを終えたところ。
――次の刃を振りかぶられてしまえば、そこに合わせるのは不可能に近い。
こちらの装備は、ノーマルフレームの標準装備である右手の実体片手剣とビームガン。
(――どうする?開斗)
姿勢制御に意識を回しつつ、百悔は少し試すような視線を開斗の手元に向ける。
開斗の躊躇いは一瞬。
握りなおした操縦桿を、思い切り前に傾けた。
「前に!出る!!」
カイトカイザーの姿勢を深く前に傾け、スラスターは全開。
一瞬でバランスコントロールと接敵距離のアラート、ロックオン警告でコクピットは警告音でいっぱいになる。
しかし百悔は、そのけたたましい警告音に負けないほどの音量で、心底嬉しそうに言った。
「そうだよね!キミはいっつも前だけ向いてる!!それでこそ!!十分開斗だ!!」
機体がそのまま前転しないようにバランスをセンターの操縦桿依存に変更しつつ、接敵に合わせてカメラやセンサーを調整。視線を端から端まで走らせる。
(――あと、僕が手伝えること――)
最後に少しだけ苦笑して、座標の指定と火器管制をいじる。
(あんまり、かわいい方法じゃないけどね)
そして――接敵。
「相手も突っ込んできやがる!?読まれてたのかよ、マキオ!?」
メンターである旬馬はキーボードをたたきながら素っ頓狂な声を上げる。
もはや悲鳴に近いその声を聴きながら、センター席のマキオは舌打ちをひとつ。
モニターいっぱいに映し出される、真紅と純白に彩られた装甲と、黄金色の曳光を引き連れるツインアイ。角飾りを模したブレードアンテナ。
――腹立たしいほどヒロイックなデザインのカイトカイザーの大写しだ。
自然とマキオの頬にも、冷や汗が伝う。
「狼狽えるんじゃねえよ馬鹿が!!俺たちのナイトストーカーの間合いにわざわざ入ってきてくれたんだろうがよ!!」
マキオは焦りを抑圧し、操縦桿を強く握る。
彼らの乗機であるナイトストーカーの基本コンセプトは「闇討ち」。
相手がほぼ無改造のノーマルフレームといっても、真正面から当たればパワー負けするような性能になっている。その分スピードと隠密性に特化したビルドになっており、レドームも装備していないノーマルフレームのセンサーに引っかかるはずは無い――はず、だった。
(マグレ当たりだ――!ビギナーズラックってやつだ!!)
自分に言い聞かせるように心の中で繰り返し、マキオは両手のビームダガーを返してカイトカイザーへとその切っ先を向ける。
(初心者なんかに――)
相手の機体は肉薄こそすれど、まだ攻撃モーションすら十分に取れていない。
ここからなら、こちらの刃のほうが先に届く。
「負けてたまるかよォオオォ!!!」
操縦桿を傾け、刃がカイトカイザーへと迫る。
(殺った!!)
そう、マキオが確信した刹那。
ビームダガーの剣先が、何かに阻まれるようにジリッ、と歪み、攻撃モーションが停止する。
「マキオ!!やられた、ビームジャミングだ!!」
―――⑧に続く。




