第一話 「動き出す夢」――⑥
一瞬視界が光に包まれたと思うと、開斗の眼前に広がっていたのは四角く区切られた無機質な市街。
遠方には、小さく敵機のシルエットが見える。
――これは仮想モニターに映し出された周囲の風景だ。
そう理解するのにしばしの時間がかかった。
隣を見れば百悔と名乗った少女の横顔。手元には、SR装置とリンクした仮想操縦桿。
ここが、自ら作り上げた愛機――センティメント、『カイトカイザー』の仮想コクピットなのだ。
改めて、初めて乗り込む愛機の感触に――バーチャルではあるが――感動を覚える。
「フィールドは市街マップ。開斗、操縦の仕方は?」
「バッチリだぜ!」
実機でのプレイこそ初めてだが、ベルランドで駄々をこねて何度も何度もシミュレーターはプレイさせてもらった。説明書も、ぼろぼろになるほど読み込んでいる。――歩き方は、理解している。
操縦桿を操り、一歩、前進。
振動が足元からずん、と伝わり、リアルにロボットに搭乗しているかのような感覚を感じる。
(これが、エバーノーツの世界…センティメントの中なんだ…)
開斗の胸中に感慨が押し寄せるが、ぼーっとしてもいられない。
続けて隣の百悔が話しかけてくる。
「市街マップは隠れるところが多いから、奇襲には注意しないと。…ひとまずマッピングはリアルタイムで進めていくから、開斗は――」
「警戒しつつ前進!だな!!」
返事を返して視線を戻すと、遠くに小さく見えていた敵機のシルエットは消えていた。
――恐らく、周辺の高い建造物の陰に隠れたのだろう。
ゆっくりと、踏みしめるように機体を前進させていく。
その間にも百悔の手元は忙しなく動き続け、キーボードを打鍵していく。
それに伴い、モニターの右上に表示されたミニマップに先ほど目視した敵機の位置や予測進路、大まかな各建造物の高低差や特殊効果に関する情報が上書きされていく。
――さながら、小さな世界を創造する作業にすら見えるほど、百悔の手際は鮮やかだった。
「すげぇな、加添歌」
ぽつりと染みるように漏れた開斗のつぶやきに、百悔は優しくふふっと笑みをこぼす。
「ボクはそれほどでも。それより、開斗のほうがよっぽどすごいよ。初めてでちゃんと前進させられる人なんか、そういない」
「え?そ、そうかな。説明書めっちゃ読み込んだし、古い奴だけどシミュレーターだけはしこたま乗ったから――」
はは、と開斗は乾いた笑い。美少女に褒められるというのは、なかなか心が躍るものらしい。
頬の紅潮を隠すように、開斗はモニターに向き直る。
その間にも、ミニマップにはより綿密な情報が書き込まれていた。
もはやSR空間の縮小版と言って過言でないだろう――それを見つつ、百悔は口を開いた。
「さ、おしゃべりの時間は終わりだよ開斗。マッピングは終了、キミならこのマップ、どう動く?」
「ええと…」
開斗も歩を進めずにマップに目を通す。いくつかの予想進路の中で、最も奇襲に向く――
すなわち、ギリギリまで開斗たちの目視を避けられるルートは――、
「――Cルート、左ビルを破壊して突っ込んでくると見た!!」
言葉とともに操縦桿をひねる。瞬間、カイトカイザーは大きく左足を下げ、体を左に広げた。
――刹那。
ビルが一瞬でサイコロのように切り裂かれ、そこから現れたのは両腕にビームダガーを装備した漆黒のセンティメント!
「ビンゴだ!開斗!」
―――⑦に続く。




