第一話 「動き出す夢」――⑤
「やるかよぉ!!!」
刹那、開斗の手がカイトカイザ―をつかむ。
アスファルト大激突寸前、自らの愛機を取り戻すことができた。
「ナイス開斗!!」
朗らかな少女の声と、男二人の舌打ち。
開斗は立ち上がり、マキオと旬馬をにらみつける。
「さぁ、反撃開始だぜ!!」
「なんでもできると思ってんじゃねぇ!初心者風情がよぉ!!」
最初のか細い印象とは全く正反対の本性をもはや隠そうともしないマキオ。
鞄に手を突っ込んで中から自前のセンティメントを出し、肩を怒らせながらSRテーブルに着席する。
「オレをコケにしたことを後悔させてやる!テーブルに着きな!!」
旬馬も慌ててマキオの隣に着席する。
獰猛な視線を受けて、開斗は百悔の方に視線を送る。
先ほどと変わらない、燃えるような闘志を秘めた瞳がまっすぐ開斗を見据えていた。
心配ない。ボクたちなら、勝てる――
そう言うかのように、彼女は力強く首肯した。
「行こう!加添歌!!」
開斗は百悔とともに着席。それを待ちわびたかのように、マキオは高らかに宣言する。
「――フィールドセットアップ!!」
言葉に呼応し、あっという間に周囲にバーチャル空間が広がっていく。
最新のSR装置によって現実となった、VRゴーグルなどを必要としない拡張現実空間ホログラムだ。
同時に周囲に防壁を展開し、ゲーム中のプレイヤーのプライバシーや安全を確保する。
開斗はカイトカイザ―を弄ばれた憤りを感じていた。しかし、それ以上の昂りに頬は紅潮していた。
初めてのバトル、初めての乗機、初めての相棒――何もかも初めてだ。
そして、自分はその「初めて」を、そのすべてを熱望していたんだと――今まさに、心の底から理解する。
「開斗、ゆっくり意識をSRに向けて。機体の声を聴くことに集中するんだ――」
百悔の言葉に導かれるように、開斗の心と意識は、ゆっくりとSR装置とシンクロしていく。
「そう、上手。――往こう」
体の隅々に何かが浸透していく。優しい導きと、荒ぶる魂の咆哮を感じる。
――これが、SR。
―――これが、エバーノーツの世界!!
「キミが望めば、なんだって叶う!!だって、ボクがついていて――キミは、十分開斗なんだから!」
「サンキュー、加添歌!!さあ、勝とうぜ!!」
そして開いた視界は、光に包まれた。
――⑥につづく。




