第一話 「動き出す夢」――③
心なしか、少年の笑いには先ほどまでよりぐっと邪悪なニュアンスを感じる。
少年は、日の光に透かすようにカイトカイザ―を持ち上げ、見定めるように眺める。
「センターもメンターも登録されてないし、これはまだ誰のものでもない。君は組んだだけ。だったら、僕のものでもいいよね?」
「い、いい訳ないだろ!『俺』が組んだ、『俺』のセンティメントだぞ!!」
慌てて開斗は切り返す。しかしその切り返しすら想定内であるかのように、少年――三木マキオはほほ笑んだ。今度は確かに、邪悪な表情で。
「いいけどさ、それ、誰が証明すんの?登録もしてないのに?」
言い切ってマキオは鼻で笑う。
――なんだよ、登録って。
開斗は叫び散らしたい衝動に駆られたが、それが己が無知を晒すに過ぎないことくらいはわかる。
今自分にできることと言えば、
「うるせえ!!俺のセンティメントだ!!ずるいことせずにおとなしく返せ!!」
力尽くで自分の大事なセンティメントを取り返すことくらいだ。
しかし、我武者羅につかみかかった両手は虚しく空を切る。
必死の形相の開斗を見て、マキオは嗤った。
「じゃあ、賭ける?このセンティメントを」
「――賭ける?」
信じられないものを見るような目で開斗はマキオを見る。
そんな彼に、不意に後ろから声がかかる。
「賭けエモバだよ。お前が勝てば、このセンティメントはお前のものだ」
振り向くと、マキオと同じ学ランの長身の男が背後に立ちふさがっている。
――挟み撃ちだ。袋小路だから、逃げ場もない。
「当然、俺たちは二人で戦うけどなあ!?」
「エバーノーツは二人一組のバトルゲーム。パートナーのいないお前は不戦敗!当然俺たちの価値で、このセンティメントは俺たちのものだ!!」
マキオが嗤えば、もう一人の男も嗤う。
こんな、スタートラインにも立てていないところで。
自分の不注意でカイトカイザ―を失ってしまう。
――諦めるしか、ないのか。
「――諦めるなッ!!」
開斗の心を見透かしたかのように、天まで通る激励がこだまする。
声の方向――袋小路のその先、塀の上から彼女は舞い降りる。
「キミが諦めないなら、ボクがキミのチカラになる!!」
凛とした声。ふわりとした、エプロンスカートのような服から、すらりと伸びたハイソックスに包まれた脚。
括れたウエストから続くスレンダーな胸元はつつましく、だが可憐なリボンで飾られている。
その上に続く白い素肌の鎖骨と線の細い首元。
上気しら桜色の頬、薔薇色の唇。
目にも鮮やかな淡い桃色のセミロングヘアは緩くウェーブがかかっている。
美しく、可憐な顔立ちの中央で、しかし燃えるような闘志をたたえた瞳が輝いている。
目が覚めるような美しい少女が、そこに仁王立ちしていた。
――④につづく。




