第二話「疾蒼の騎士」――③
そして、放課後。
「よっしゃあ!放課後だ!!早速ショップに直行だぜ!!」
開斗は意気揚々と荷物をまとめ、颯爽と教室を駆け出す。
最短距離で昇降路を駆け抜け、いざ、学外へ――、と飛び出そうとしたが、正門周りに人だかりができていて引っかかってしまった。
門の前に誰かいるのだろうか?円状に人垣が構築されていて、思うように進めない。
「なんだ?なんかあったのか?」
人垣の外周、手近にいた同じクラス女生徒に声をかける。
「ん?ああ、十分君。なんか、芸能人みたいなかわいい子がナンパしてるんだって」
「ヤだよねー、男って単純でさあ」
話に乗ってきた隣の女子が、ため息交じりに声を上げる。
「可愛い子ちゃーん、こっちこっちー!!」
そんなくだらない野次も飛んでいるが、どうやら声をかけられている女性のほうは歯牙にもかけない様子だ。
人を探すように頭を振って、ばちりと開斗と目が合う。
体のラインがはっきりと出る、ぴっちりとした赤いライダースーツ。
淡い桃色のセミロング、可憐な唇。
――昨日見た顔。加添歌、百悔だ。
「ってビャクちゃんじゃねーか!!何やってんだよ!?」
素っ頓狂な声を上げる開斗に、百悔は嬉しそうに手を振る。
「あ、居た居た!開斗!」
人混みに広がる騒めき。
「なっ!?可愛い子ちゃんのお目当ては開斗!?」
「メスだ…メスの顔になった…」
「くそっ!!なんでいつもあいつばかりオイシイ目に!?」
しかし、百悔はそんな事お構いなしで、人混みをかき分けながら近づいてくる。
開斗のところにたどり着くや否や、手を取ってずんずん来た道を戻っていく。
「昨日のボクの秘密のメッセージ、受け取ってくれた?」
「秘密のって…?」
一瞬迷うが、昨日の夜、ふと届いたメッセージを思い出す。
『えっと…アドレス名、Q-10.hundred…?誰だ、これ…』
昨晩届いたチャットウインドウへの招待メッセ―ジ。Q-10.hundred。
「昨日の晩の…?」
「そういうこと!これでいつでも連絡取れるでしょ!今度からは返事してよ?」
言いながら半ば無理やり百悔は開斗にヘルメットを渡す。
「え、これって…」
「ショップ行くんでしょ?乗っていきなよ!」
百悔はパチンとウインクして、自身もバイクにさっと跨る。
開斗は一瞬あっけにとられたが、ニッと笑ってヘルメットを被った。
「んじゃ…お言葉に甘えるか!」
人混みをかき分けるようにして、颯爽とタンデムで走り去っていく二人の背中を校門の陰から見ている影がひとつ。
(え…うそ…?誰なの、あの子…?開斗君と、いったいどういう関係なの…?)
――末永となりは、目の前の光景が信じられないという様子で呆然と立ち尽くしていた。
――④につづく。