第二話「疾蒼の騎士」――②
翌朝、サウスセントラル市立高校2年A組にて。
「おはよう、開斗君」
ふわりと、ミルクのような甘い香りを感じて開斗が振り向いた先には、制服姿の美少女が小首を傾げ笑顔でひらひらと手を振っていた。
「おう、おはよう、となり!」
後ろでひと房だけリボンで結ばれた、黒髪ロングのストレートヘア。
そろった前髪、雪のように白い肌。
少し困ったように下がった眉に、垂れ目がちな黒目の可憐な少女。
――末永となり。開斗の隣家に住む、昔ながらの幼馴染だ。
「今朝、早かったんだね。迎えに行ったらもう出発してるってお姉さんに聞いて、びっくりしちゃった」
となりはいつも通りの柔和な笑顔――それでいて、どこか困ったような笑顔で、いつも通り開斗の隣の席に座る。
「おう、わりいわりい。起こしに来てくれてたのか。なんか昨日、めっちゃくちゃ熟睡できてさあ。朝もバチッと目が覚めちまったんだよな」
「そうだったんだ!ふふ、珍しいね」
となりは口元をおさえて控えめに笑う。開斗にとっては、いつも通りの朝の風景だ。
「くっそー-、、南中三大美少女のとなりちゃんと朝から公然とイチャイチャしやがって…殺す…」
「幼馴染でお隣だからって調子に乗りやがって…殺す…」
男子生徒からはいつも通りの怨嗟の声が聞こえるが、開斗にとっては毎度のこと、気に留めることもない。
となりは少し困ったような視線をそちらに向けて、苦笑い。
開斗のほうに視線を戻し、
「じゃあ、開斗君。帰りは、一緒に帰ろっか?」
と微笑みかける。これも、いつも通りのワンシーンだ。
しかし開斗は、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「いやー、重ねてわりい。今日は放課後行くところがあるからさ、先帰っちゃってくれ」
「…そっかあ…」
となりは一瞬間をおいて続ける。
「うん、分かった。行くとこあるなら仕方ないもんね。…そういえば、昨日はどうしたの?開斗君、すごくはしゃいでたけど…」
「あっ、うるさかったよな!?姉ちゃんにも怒られたんだよ、ごめんな!!」
大げさに手を合わせて謝る開斗に、となりはぱたぱたと手を振りながらまた困ったように笑った。
「ううん、全然。でも、楽しそうだったから…」
「俺な、新しいゲーム始めたんだよ!エバーノーツ、っていうんだけどさ!今度となりも一緒にやろうぜ!」
開斗の言葉にとなりは控えめに微笑んで今度ね、と答えた。
その横顔が含んでいた寂し気なニュアンスは、開斗が察するべくもないだろう。
――そんな開斗の肩を大げさに叩く男が二人。
「開斗君、今の話本当!?」
「マジで始めたのか!メンター、見つかったのか!?」
以前エバーノーツの話をともにした友人、星山一郎と新村健だ。
「おーよ。早速昨日、一戦カマしてきたぜ――ってか、お前ら!!メンターの話、俺に教えてくれなかったろ!!」
開斗も嬉しそうにそれに応える。
左手首にした、となりが見たこともないガジェットを操作して、となりの知らない顔で屈託なく笑う開斗。
―――いつもと違うその光景を見ていられなくて、となりは少し目をそらす。
「…エバーノーツ、かあ」
少し考えて、彼女は手元の端末に手を伸ばした。
―――③につづく。