間隙
病院には、四と九が末尾に付く病室が配置されていない。四は死、九は苦しむ、それらが連想されてしまうからだそうだ。市民の命がかかっているため、それは魔獣災害時に逃げ込むシェルターにも採用されている。
故に今、白妙が座り込んでいる四九という番号のシェルターは、最も避けるべきとして欠番になっている。
「いやぁ、すまないね毎度毎度」
彼の声は、いつも低すぎる。一人しかいないシェルターでは音を遮るものがないため、広い空間で響く低音はひどく聞き取りづらいものとなる。
「別に。気にすることじゃないんで」
白妙は立ち上がると、奥からやってくるその声の主に対し質感のない声を返す。その人物に対して、興味がないと突き付けるように。
「まぁいいさ。今日は、いや、今日からやっと君が動くべき時になったんだからね」
距離を置かれていることを正しく認識しながら、それでもおどけるように仰々しく振る舞って、声の主はようやく明かりの下へ現れた。
白髪交じりだが、顔立ちから三〇代後半ほどと思われる痩躯の男。カラカラと笑う姿に、これからどんな話を始められたとしても冗談としか受け止められそうにない。
「捜し人、見つかったよ」
だがその言葉を聞いた瞬間、白妙の顔色は一瞬で緊張に包まれた。
「君の睨んだ通り、ここにいた」
トントンと足を鳴らし、床を示す。決まっていた覚悟を再確認するように、白妙には沈みそうなほどの深呼吸があった。
「で、協力はここまで?」
刺すような視線と言葉に、男は肩を竦めてみせた。
「まさか。シオンに恨みがあるのは君だけだと?」
「俺に恨みはないよ。ただ返してもらわないといけないやつがいるだけ」
今まで自身に燻りながらも在った確信が、この瞬間事実へと形を変えた。あの時放った右の掌は見つめて、閉じて開いて、一際強く握る。
「じゃあ、ちょっと手伝ってよ」
無邪気そうな白妙の言葉に、男は大きく口を歪める。その笑みは優しく、そしてどこか険しく写った。