主人公様の登場
部屋に戻って一息着いた。
クロードとの会話を無事乗り切れたこと。そして選択肢以外の言葉を付け加えることで、印象を変えることが出来た。
大きな収穫だ。
いきなり試すのは怖かったが、この世界で生き残るために早めに方法を考えておきたかった。
体の強ばりがようやく解ける。
脱力した私に、セルジュがお茶を差し出してくれた。
ありがとう、と言って受け取ると、セルジュが深々と礼をした。
「ありがとうございます。・・・・・・私の処遇でクロード様とお話されたのですよね」
そう言って、綺麗なルビーの瞳を伏せた。
どうやら、セルジュはわかっていたらしい。
おそらく、私が見ていないところで使用人に何か言われたのだろう。
二日前に急に専属執事に任命されて、これまでの仕事内容が変わり。わからないことを聞いて回っていた。
その中で、嫌なこともあったのではないか。
私は、胸の内でつぶやいた。
セリア、あなたのことを思ってくれている人は案外近くにいたんだよ。
私は彼女の分も含めて、セルジュにお礼を言った。
「こちらこそありがとう。あなたが支えてくれるから、なんとかがんばっていけそう」
セルジュは照れて赤くなった。
もらったお茶を飲んで、明日からのことを考える。
謹慎が解け、ゲームのメインの舞台である学園へ行くことになっていた。
そこにはクロード以外の攻略対象と、主人公がいるはずだ。
彼らとあったらゲームウインドウが出て死の選択を迫られる。
おとなしく過ごすに限るが、セリアは皇太子の婚約者で国内有数の貴族アデレード家の令嬢だ。
貴族の縦社会がそのまま反映されたような学園で、静かに過ごすことなど出来るのだろうか。
次の日、制服に身を包み学園へ向かう。
馬車に揺られてたどり着いたそこは、ゲームでおなじみの建物だった。
ゲームをやりこんでいた身としてはなんだか感動してしまう。
だが、この中で待っているのは地獄だ。気を引き締めてかからなければ。
学園の中に入ると、セリアの取り巻きたちであろう女子生徒がやってくる。
お体はよろしいのですか?などと言われながら先導をされていく。
自分の教室がどこかもわからないのでそのままついて行くことにした。
このまま初日くらいは何事もありませんようにと思っていたが、その願いは聞き届けられなかった。
教室の前でクロードが待ち受けていたのだ。
「授業の前にちょっと来てくれないか?」
私に拒否権などはないので、取り巻き達に一言告げて、クロードについていく。
連れた来られた場所は、学園の生徒会室だった。
ドアを開けると、部屋の中に三人いた。
彼らを見て、思わず舌打ちをしそうになる。
そこにいたのは、なるべく避けたいと思っていた攻略対象と主人公だった。
フェリクス・ブランシャール
この国の皇太子で、セリアの婚約者。
エリク・バロワン
皇太子の幼なじみで、騎士団長の子息。
そして・・・・・・
「セリア様、お身体は大丈夫ですか?体調を崩されたとお聞きしましたが」
二人に挟まれて、こちらをにっこりと微笑む少女。
このゲームの主人公だ。
茶髪で黒い瞳。愛くるしい顔立ちをしていて、まるで小動物のような少女だった。
ゲームのパッケージに出てくる姿そのままだ。
彼女が、私を処刑エンドに連れて行く存在。
そう思うと、目の前のかわいい存在が悪魔に見えた。