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実験

二日後、私はクロードに呼びされた。


メイドに解雇宣言したことがクロードの耳にも届いたようだ。そして、セルジュを専属の執事としたことも。


部屋で二人、クロードと対峙して緊張していた。

いつゲームウインドウが出て、死の選択を迫られるかと気が置けないからだった。


クロードは話し始めた。

「専属メイドに解雇を告げたようだが、何をしたんだ」


私は慎重に答える。

「無礼な振る舞いや態度をしていたので、アデレード家にはふさわしくないと思い解雇を促しました」


クロードはため息をつく。

「・・・・・・使用人たちの態度がひどかったのかもしれない。だが、それはおまえの普段の態度にも問題があるからだ。それに解雇は性急すぎる。あのメイドは、ようやく決まったおまえ専用の使用人なんだ」


「専属使用人の件なら問題ありません。新たな者を選びました」

部屋の外に待機しているセルジュのことを言った。


それにクロードはしぶい顔をする。

「そのことでも使用人の中で噂が流れている。見かけのいい奴隷を専属使用人にしたことは、別の意味があるのではと」


その声色と遠回しな言い回しに、彼が何を言おうとしているのかがわかった。

セルジュは私の愛人のような存在なのかと聞いているのだろう。


自分が、セリアがないがしろにされただけではなく、セルジュもおとしめられたことに

頭が血が上る。


クロードに説明をしようとしたその瞬間、目の前にゲームウインドウが表示される。

『クロードがあなたと使用人の関係を訪ねています。どう答えますか。

1 それが何か?

2 お父様が外交でいないからって、継承者きどり?

3 (睨みつける)』


今回も、最悪な選択肢がそろっている。


クロードへの対応は慎重にならなければならない。

だが、ここで自分の立場をないがしろにされたままなのは今後の展開に悪影響もでるだろう。


そして、少し試してみたかったこともある。


私は意を決して『1 それが何か?』を選択した。

「それが何か?」


私の答えに、クロードの顔に怒りが現れる。

「何かとはなんだ!私を軽んじているのか!?」


今にも立ち上がり、私を罰するような勢いだ。

この反応ということは選択肢はきっと間違い。だが、それに臆せず間髪入れずに口を開く。

「お兄さま、軽んじているのは使用人達です。お兄さまはそれをお許しになるのですか?」


私の静かな物言いにクロードは驚いていた。

いつものセリアであれば大声をあげて癇癪を起こすだろう。だが、私は努めて冷静に話を続ける。

「私のいきすぎた態度や行動は改めます。ですが、それを受けて使用人が主人をないがしろにすることは許されないはず。なぜなら身分もありますが、雇い主だからです。お兄さま、私はアデレード家の人間です。私の決定に異を反するどころか醜聞を流す行為を許すことは、アデレード家を軽んじていることを許すことと同じです。次期当主としてすべきことは、私ではなく使用人をいさめることです」


試したかったことが出来た。


選択肢を選んだ後に、自分の言葉を続けることが出来た。

そして言い方も工夫をする。


次期当主への反論と取られられないよう、声のトーンは極力抑えめにする。


怒っているのではない。意見を言っているのだ。

それをクロードに伝えるように。


つまり、選択肢意外の意味を持たせたのだ。

言葉を付け足すこと、表情や声のトーンを帰ることで悪役令嬢ではないセリアを演出してみたのだ。

不躾な返答しかない選択肢では、いくら命があっても足りない。


あとは、それが相手にちゃんと判定されているかだ。

私はクロードをじっと見つめる。


もし、選択肢意外の言葉が判定されていなかったらどうしようかと思ったが、困惑するクロードの顔を見て安堵した。

どうやら大丈夫らしい。


私は最後にだめ押しで言った。

「お兄さま、使用人に振り回され、家族をないがしろにすることは貴族としてあるべき姿ですか?・・・・・・それとも、私だからないがしろにするのですか?」


クロードは黙り込んだ。おそらく、それが図星だったからだろう。

ゲームでの彼はセリアを下に見ていた。セリアが主人公に対して暴れると、必ずセリアを罰してため息をついていた。

彼女が出てこないシーンでも、甘やかされて何も出来ないセリアに手を焼いていると言っていたくらいだ。

きっと、今までのセリアの振る舞いから、彼女より使用人達の意見を尊重していた。


それは、何より血を大切にする貴族の者としてありえない。


貴族の会話は言外に大きな意味を持たせる。


私は聞いたのだ。


『あなた、アデレード家の後継者としての資質があるの』、と。


言ったことが伝わったのだろう。クロードは深く考え込んでいた。

そしてセリアの顔をじっと見て、ようやく口を開いた。

「おまえの言うことはわかった。・・・・・・専属使用人の決定のことはそのままとしよう」


どこかショックを受けたようなクロードに、私は深々と礼をした。

「ありがとうございます。お兄さまの寛大な処置に感謝いたします」


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