ようやく出来た味方
セルジュをつれて自分の部屋に戻る。といっても自分では戻れないのでセルジュに案内してもらう。
彼を連れていくと、部屋の前で待機していたメイドが目を見張った。
「お嬢様、いったいどこへ・・・・・・その方は?」
萎縮するセルジュを支えながら答えた。
「彼を今日から私の専属執事にするわ」
メイドはあっけに取られ、その次に馬鹿にした態度を隠さず言った。
「お嬢様・・・・・・身なりを整えたり、令嬢としての準備をするのに異性の使用人では出来ないでしょう。それに彼は奴隷です。そんな方が貴族の令嬢の専属の使用人になることは考えられません」
そう言って、あきれたと言いたげにため息をつく。
使用人としての資質のことを言っているのなら、自分こそその態度はないだろう。
セリアはよほどこの家の者たちから舐められているようだ。どうしたものか、と考え煎るとそばで控えていたセルジュが口を開いた。
「お嬢様に対して失礼です」
怒りで、声がふるえていた。ちらりと顔を見れば、メイドを射殺さんばかりに睨んでいた。
あぁ、この大きな屋敷の中でセリアを慕ってくれる存在が一人いた。
それでけではない。ちゃんと主人の威厳を守ろうと行動してくれている。
彼の勇気に私も答えなきゃ。それに、やられっぱなしは癪だしね。
私はメイドに向き合った。
「あなた、令嬢としての準備を手伝うと言ったけれど、今朝の自分の行動はどうだったの?」
それを言われて、メイドはまずいという顔をした。
そう、彼女はセリアの朝の着替えを手伝わなかった。この様子だと、今日に関わらずきっといつもそうなのだろう。
準備を手伝われず、自分一人では着替えられないセリアはいつも朝から機嫌を悪くしていたに違いない。
セリアのひどい態度は、アデレード家の境遇からも来ているのかもしれない。
「専属使用人としての資格のことを言うのなら、あなたは不適合よ。・・・・・・今までしてきたことを反省し、自分から辞めるか、それとも私から辞めさせられるかのどちらかを選びなさい」
ようやくメイドは自分が取り返しのつかないことをしたとわかったのだろう。
ふるえながら私に深々と礼をしながら謝罪をした。
「も、申し訳ございません。数々の無礼をお許しください!ですから、お嬢様からの解雇だけはどうにか・・・・・・」
雇い主からの解雇はなんとしても避けなければならないもののようだ。
震えるメイドに言った。
「下がりなさい。そして二度と私の前に姿を現さないで」
そう言って、セルジュの手を引いて自分の部屋に入った。
ドアを締めて、メイドの気配が無くなって一息ついた。
なんとか、なんとか初日を乗り切った。
安心からか、足の力が抜けてその場にへたり込む。
「お嬢様!」
そばにいたセルジュが慌て、同じ目線に座り込む。
こちらを涙目で見ている彼を安心させようと、思わず頭をなでた。
「大丈夫。疲れが急に出ちゃっただけ」
私の言葉に少しほっとしたのか、セルジュは目尻を下げた。
「それより、さっきは嫌なものを見せたわね。・・・・・・奴隷なんて、二度と聞きたくなかったでしょうに」
連れてきた主人が下に見られ、自分も奴隷と呼ばれた。
セルジュにとってはいい光景ではなかっただろう。
だが、セルジュは涙目になって首を振った。
「いいえ。セリア様は素敵でした。威厳があり、お美しかったです」
そういって、なでられた手に沿うように自分の手を重ねた。
その手が温かくて、なんだか自分まで涙が出てきそうだった。
訳のわからない世界に放り込まれ、死が待ち受ける悪役令嬢になった。
自分がどうなるかわからないけれど、がんばってみよう。
この子とともに。