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白兎を探して


幸い、食事中にゲームウインドウも出ることなくつづがなく終わった。

クロードと別れ、『彼』を見つけるべくさっそく家の中を探索することにする。


彼の特長は髪の色が銀髪だということだけ。


腹ごなしに少し家の中を回ると言って、困惑するメイドを置いて一人で動く。

国内有数の貴族の家だけあって、屋敷はとてつもなく広く部屋数も多い。

まだ勝手もわからない中で探すのは苦労した。


執事やメイドに特徴を伝えて聞こうかとおもったが、愛想笑いをされてそそくさと逃げて行かれる。

皆セリアと関わることを恐れているようだった。

さまよい歩いて疲れ果て、最悪なことに自分が今どこにいるのかすらわからなくなった。


貴族の令嬢はそもそも運動しないのか、家の中を歩き回っただけでマラソンを走った後のように足が痛い。

どこかの部屋で休もうかとも思ったが、むやみに扉を開けて窮地に陥るような展開に

なっても恐い。

せめて人目に付かない場所にと、階段を下りて地下へと降りていった。


地下への階段は、どうやらそれは食料庫につながる階段だったようだ。

人気もいないので貴族令嬢としてはあるまじき行為だが、座り込み足を延ばす。


このまま見つからなかったらどうしよう。銀髪という手がかりしかないけれどあれがゲームスタッフの色の塗り忘れなどというオチだったら、どうしよう。


だったら詰んだな。

疲れで気がゆるんだのか、小さな笑い声を漏らしてしまう。


すると。


「どなたですか?」


食料庫の奥から声がした。男性だが、どこか甘い声。


なんと返事をしていいかわからず、黙っていると声の主がこちらへやってきた。


「大丈夫ですか?このような場所で、どこかお体が悪いのですか?」


近づいてきた人は、探していた銀髪の彼だった。


驚いて固まってしまった私を、彼は心配そうに見てくる。

「お水、持ってきましょうか」


少し遠いとこから、遠慮がちに私をみる彼をまじまじと見てしまう。

銀髪に、綺麗な顔立ち。華奢な体をしていて人形のようだった。

人間から離れた印象を持つのは、彼の目だ。


ルビーのように赤い瞳をしている。

銀髪に、赤い目。前の世界風に言えばアルビノというやつだろうか。


しげしげと彼を見ていたが、ふと気がついたことがある。

決してこちらには寄ってこない。それが許されていないように。


まるで犬のようだ。しつけられたワンコ。


人相手に失礼な感想だが、そう思ってしまって、思わず顔をゆるめた。

それを見て、相手も少し安心したのだろう。

彼は話し始めた。

「あの・・・・・・ありがとうございます。ずっとお礼を言いたかったんです」


「お礼?」


「えぇ。奴隷だった私を救ってくださり、こうして仕事を与えてくださった」


そこからの彼は感謝とともに自分の生い立ちを説明した。

彼は移民の末裔で、生まれたときから奴隷だったということ。

偶然通りかかったセリアが、彼の見た目の珍しさを面白がって金で買ったこと。

執事としてアデレード家で働くことになった。ということだった。


「それ以来、こうして食料庫の管理や洗濯の係をしています」


そう言って、ふんわりと笑う。

彼は幸せそうだったが、地下の食料庫や洗濯などは執事の仕事なのだろうか。

重いものを持ったり、汚れ仕事は使用人の中ではあまりやりたがらない仕事なのではないだろうか。


彼はセリアに初めてお礼を言えたようだった。

とうことは、セリアは彼を買ってから一度も会っていないのではないか。


家の騒動の中心であるセリアが気まぐれに買ってきた元奴隷。

それを元々いた使用人たちがどのように扱ったのか。その結果がこの地下室ではないか。

聞いた話から色々推測してしまうが、彼はこの境遇に不満を抱いていないようだった。

さっきの言葉に、感謝の気持ち意外の意味は含まれていなかった。

まっすぐに赤い瞳で、セリアに会えてうれしいと言っている。


彼ならば、私の味方になってくれるかもしれない。


「・・・・・・あなたの名前は?」

このタイミングで聞くのは失礼だろうが、彼は気分を害した様子も無く答えてくれる。

「セルジュと申します」


「セルジュ、綺麗な名前ね」

その言葉にセルジュの頬は赤くなり、照れてうつむいていた。

ますますワンコみたいだ。


「会いに来れなくてごめんなさい。これからは私のそばにいてくれる?」

私の言葉にセルジュは驚いて目を丸め、そしてはにかんで笑った。


よかった。この世界で私は一人じゃなかった。


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