エンディングにいた彼
部屋に戻って、ベットに座り込む。
生きて戻ってこれたことに安堵して、大きく息を吐いた。
どうにか選択肢は間違えなかったらしい。
先ほどのクロードの部屋のことを振り返る。
目の前に表示されたゲームのウインドウ。
その中に表示された選択肢を選ぶしかない。
その選択肢がでている状況は、他の言葉を言うことは出来ない。
ウインドウが閉じると、自由に会話することが出来る。
それが先ほど得られた情報だ。
悪役令嬢セリアとしてこの世界で生きていくルール。
クロードとの対面を経験して思ったのは、選択肢が最悪すぎるということだ。
悪役令嬢としての台詞しか許されないということなのだろうか。
だが、あれではいくら命があっても足りない。
選択肢を間違えれば即処刑のルート。クリアすることなど出来るのだろうか。
そして、クリアとはなにをすればいいのだろうか。
このまま順調に進めても、正規のルートと同じ結末をたどるなら処刑だ。
考え込んでいるうちに、いつの間にか夜になった。
扉をノックする音がした。
先ほどのメイドだろうか?体を起こして入ってくるメイドを待つも、なにも動きがない。
先ほど許可無く扉を開けたので、今回もそうくると思ったが。
私は声をかけた。
「入って」
すると、メイドがおずおずと入ってきた。
「お食事の時間です。外で待機しておりますので、用があれば申しつけください」
所々、嫌々な雰囲気はでていものの、昼に来たときとは少し違う態度だった。
普段と違うセリアの態度だったから、警戒しているのだろうか?
状況に悩まされ、食欲はない状態だったがここで部屋に閉じこもっていてクロードの好感度に影響があっても怖い。
しぶしぶ食事に行くことにした。
外で待たせたメイドに案内させ、食事をとる部屋まで案内させる。
ドアを開けると、テーブルの向こうにクロードが座っていた。
促されて、合い向かいの席に座る。
クロードがうなづくと、食事が始まった。
何を話していいかわからず、私からは何も話さなかったが、クロードが口を開いた。
「学園での騒動も三日もすれば落ち着くだろう。相手方も幸い怪我がないようだし、あとはこちらでなんとかしよう。おまえは誠心誠意謝るように」
学園の騒動?怪我?
もう少し情報が欲しくて、クロードに話を合わせる。
「そうですか・・・・・・それはよかったです」
私の返答が正解ではなかったらしく、クロードが顔をしかめる。
「よかった、ではないだろう。聖女として召還された女性に、あろうことか『殿下に色目を使った』と難癖をつけて突き飛ばしたのだ。相手が怪我でもしようものなら、国の問題になってしまうところだった」
そこまで言われて、気が付いた。
それはゲーム序盤で起こるイベントの一つだ。
聖女として召還された主人公が、この国のしきたりや歴史を学ぶため、貴族の子息が通う学園に通うことになる。
序盤、同じく学園に通う皇太子に挨拶をしたときに、皇太子の婚約者である悪役令嬢に突き飛ばされるというイベントだった。
たしか、それがきっかけに皇太子と仲良くなり、悪役令嬢の兄であるクロードと接点を持つというものだった。
すでに主人公がこの世界にいて、ゲームは本格的に進み出しているというわけだ。
エンディングは、学園入学から三ヶ月後のことだった。
つまり、もう私の命のカウントダウンは始まっている。
ショックが顔に出ていたのだろう。クロードが今までの責める口調を止める。
「・・・・・・誠心誠意謝ればいい。誤解があったとな」
まじまじとクロードを見つめる。
セリアから養子だなんだとののしられていたのに、彼女のために動けるのはすごいな。
さすが攻略対象。中身も出来ているな、と関心する。
だが、油断は禁物だった。
彼も、義理とはいえ妹に見切りをつけてセリアの処刑に手を貸した人物なのだから。
ゲームのエンディングで流れるスチルを思い出す。
スタッフロールとともに、後日談が絵で出て来る。
その中で、処刑後のセリアの墓のイラストが出てきた。
郊外の寂しいところにたてられた墓は、国内有数のアデレード家の令嬢のものとしてはお粗末なものだった。
そういえば、あのスチルってちょっと話題になったな。
最後は処刑されるほど人々に嫌われたセリアだったが、彼女の墓には一輪の薔薇が添えられていた。
そして、それを添えたと思われる人物が遠くに描かれていた。
銀髪で、顔はよく見えない。だが、格好からアデレード家の執事ではないかと言われていた。
彼女を思って泣いている姿に、悪役令嬢を慕う奴なんていたのか?とゲームファンの間では疑問に思われていて、没になった設定があったのか?と噂されたり、ゲームスタッフが適当に落書きしたんじゃ?なんて言われたくらいだ。
彼が存在し、味方にすることが出来たら。
突然放り込まれた世界で、味方も一人もいない中で死の運命を回避するのは心許なかい。
誰か一人でも自分の側にいてくれる人がいれば、バットエンドを回避する糸口がつかめるかもしれない。
彼を探そう。この世界で唯一味方になってくれるかも知れない人を。