2人の道
死を覚悟したそのとき。
「殿下!」
二つの剣が混じり合う音がして、暗闇に火花が散る。
驚いて後ろを見れば、フェリクスの剣をエリクが受け止めていた。
あっけに取られている私たちに、別の誰かの声がかかる。
「二人とも、早くこちらへ!」
クロードだった。私たちを引き寄せて、行き先を誘導していく。
「あそこに馬車を用意している。騒ぎが大きくなる前に早く行け!」
別宮に次々に明かりがともり、人の声が大きくなっていく。
騒ぎに気がついたのだ。
クロードは私に言った。
「馬車に当座の資金が用意してある。他国にわたる準備は出来ている。ここからはついていてやれないが、二人の無事を祈っている」
穏やかに、私に、セリアに笑いかけた。
それは本当の兄のような笑みだった。
私はクロードに微笑む。
「ありがとう。『兄さん』」
クロードはうなづいて、エリクを援護するために私たちに背を向けて走り出した。
月明かりの下、二人だけの時間がようやく出来る。セルジュはそれに戸惑い、私に問いかける。
「お嬢様、良かったのですか?私の命を助けるためにお嬢様がクロード様と離れることに・・・・・・アデレード家のご息女の立場をかけるほどの価値は、私にはありません」
私はセルジュの手を握る。
「価値はあるよ。あなたはずっと私を支えてくれた。あのとき、あなたが声をかけてくれなかったら、クロードと関係を回復することも、エリクと対等に話すことも、アデレード家の令嬢として胸をはることも出来なかった」
「だからね、あなたがいなければわたしはセリア・アデレードとして生きていけなかった。あなたの命と比べれば、私の存在はとてもおぼろげなものなのよ。・・・・・・アデレード家の後ろ盾がなくなったただの私と一緒に生きてくれる?」
セルジュは涙を流しながらうなづいた。
「はい。お嬢様と生涯をともにします」
セルジュの手を引いて、クロードが用意した馬車へ走り出す。
月明かりに導かれて、新しい道を進んでいく。不安もある。けれど、握った手の温かさを守るためなら、どんな茨の道でも進んでいくと覚悟は決めていた。
もう、引き返す選択肢はない。前に進み続けるのだ。




