迫り来る死
主人公が死んでしまった。
まさかそんなことになるとは思わず、呆然と大量の血のなかに倒れるレナを見る。
苦痛にゆがみ、涙でぐちゃぐちゃになった顔。
もう、誰も彼女を聖女とも主人公とも思わないだろう。
フェリクスがレナを殺す。
もう完全にゲームのストーリーから逸脱している。
うつろなフェリクスの目がセルジュに向けられる。
「おまえがいなければ、おまえが!おまえが俺をこんなにしたんだ!」
フェリクスはレナの死体を蹴り、上に向かせると短剣を抜き取った。
飛び散った血に染まったフェリクスは、皇太子としての姿はどこにもない。
まずい。最悪な展開になった。
ここにいてはセルジュが危ない。
私はセルジュの腕をつかみ、元来た道へ走り出す。
「待て!!!」
フェリクスがこちらを追ってくる。
暗闇に入る直前、セルジュが地下牢に備え付けられた燭台を手に取り、私の足下を照らした。
二人で息を切らせながら走りきり、もう少しで出口にたどり着くところで、フェリクスに追いつかれる。
「おまえも終わりだ!!」
私に振り下ろされようとした短剣は、セルジュが燭台で防ぐ。
「お嬢様、早く外へ!」
燭台と短剣では分が悪い。このままではセルジュも殺されてしまう。
私は地面に伏せて砂や小石を広い、フェリクスの顔に投げつけた。
「くそ!!」
目に砂が入り、瞼をきつく閉じながら剣を振り回すフェリクスをおいて、私はセルジュの腕をつかんで再び走り出す。
もうすぐ外というところで、目を細めながらこちらへ走るフェリクスに追いつきそうになる。
「必ず殺してやる!!」
彼の怒号が身体をすくませるが、ここで立ち止まれない。
女の私と、牢にいて身体が弱っているセルジュではフェリクスの足にかなわず、目の前に月の光が見えているのに、彼の剣が振りかぶる音がすぐ後ろで響いた。
もうここで終わりなの?
ここまで生きてこれたのに。
最悪の選択をくぐり抜けてきたのに。
私の選択は、結局自分だけでなく大切なセルジュの命も奪ってしまう最悪な結末に向かうものだったの?
風をきって、剣が振り下ろされる音が真上でした。




