舞踏会の始まり
その日はついにやってきた。
舞踏会は学園内にある歴史的な建物の中のホールで行われる。巨大なシャンデリアが中央につるされ、荘厳な雰囲気が漂っていて普段は立ち入ることが出来ない場所だった。
皆が貴重で輝かしい舞台を楽しむべく、美しく着飾り舞踏会に花を添える。
歓談を楽しんでいた貴族が、一瞬静まりかえる。
その場には似つかわしくない格好で現れた者がいたからだ。
そう、それはセリア・アデレード。
参列者は皆私を見て目を見開いていた。なぜなら、黒いドレスを着ていたからだ。
豪華な宝石が装飾されてはいるが、晴れ姿には似つかわしくないものだ。
だからこそ目立った。鮮やかな油絵の中に墨汁がたらされたように、その場で私一人が浮かび上がる。
ドレスだけではただの不作法者だ。
だがそれだけでは終わらせない。ドレスの色の奇抜さで集めた好奇の視線を、次に羨望へと変える。
舞踏会に相応しい華やかさは髪型やアクセサリーで表した。美しい金髪をこの日の為に最高の状態にして華麗に結わえる。髪飾りやアクセサリーを惜しみない宝石で彩り、夜空に輝く星空のように自分を飾り付けた。
セリアの美貌があってこそなせる技だ。
その姿は舞踏会の会場中の目線を集めた。
もう学園の中でセリアのことを表だって悪く言う者はいなかったが、それでも争いごとに巻き込まれまいと近寄らない者も多かった。
だが、その日の高貴な雰囲気のセリアは夜の女神のようで自然と周りに人の輪が集まった。
今までセリアの外見を有効活用出来なかったが、着飾るとその威力を思い知る。
そう、今日はなりふり構っていられない。
この日、ゲームのシナリオでは婚約破棄を言い渡される日だ。
舞踏会が終わり、最後のセレモニーの時にフェリクスと主人公がともに出てきて断罪イベントが発生する。
総力戦で挑まなければならない。
笑顔とは裏腹に思い通りに事が進むか緊張していたが、待っていた人物からお声がかかる。
「今、少しいいだろうか」
人の輪がぱっと散り、皆が頭を下げる。
振り返れば、フェリクスがこちらに手を差し出していた。
「話があるんだ」
彼は白をベースとした服を着ていた。ゲームのスチルで何度も見ていたものだ。
ふつうは婚約している者同士は同じ色の服を着る。だが、今の私たちは白と黒の服。ちらりと周りを見れば、皆言葉にしないながらも異変を感じているのが顔を見合わせている。
私はフェリクスの手を取った。
「二人でお話いたしょうか。舞踏会が始まってしまえばゆっくり出来ませんから。・・・・・・夜風が気持ちが気持ちよさそうなので、よければテラスに行きませんか」
フェリクスはそれに同意した。皆の視線を集めたまま、二人で歩いていく。
この後の作戦のために、なるべく視線を集めなければ。