最終幕の始まり
最終月に入った。ゲームでは最後の学園祭に向けてラストスパートの時だ。
ねらった攻略対象とも好感度はあがっている状態なので、お茶やお昼の時間など多くの時間を過ごすことになる。
そして、それと同時に悪役令嬢セリアからの妨害も悪化の一途をたどった。
それがゲームの筋書きだった。
私はセルジュを助けるために、フェリクスやレナと対立する。
結果的にゲームと同じ展開になるということだ。
フェリクス編のセリアの結末は、聖女に危害を加えようとしたことで処刑されるという末路だった。
選択肢を間違っても死。そして、セルジュを助けるよう動いたとしても死が待っている。
自分なりに危機を回避しようと努力してきたが、結局ゲームの筋書き通りに事が進んでいる。
だが、これまでとは違うのは、クロードがこちら側に立ってくれているということだ。
クロードの秘密がわかって以降、彼と話していてもゲームのウインドウが出ることはなかった。
秘密を明かせば、攻略対象からはずれるということなのだろうか?
同じく秘密を明かしたエリクとはあれから接触していない。
学園で見かけたことはあるが、どうやらフェリクスとも行動はあまりしていないらしい。
残る秘密を持つのはフェリクスのみ。彼にもまた、変化があった。
積極的にセリアに接触してくるようになったのだ。
ゲームではセリアから話しかけ、それをフェリクスが疎ましがっていた。
そして私がこの世界に転生してからは、フェリクスにこちらから接触することはなかったので、強制イベント以外で話すことはなかった。
だが、この前のドラゴンのイベントが発生してからというもの、何かと話しかけられるようになった。
今日も、フェリクスから昼に誘われた。セルジュの話が聞けるのではと了承し、フェリクスの後についていく。
場所は初めて二人きりで話した庭園のベンチ。もう二度と私からは話しかけないと言った場所で、二人でお昼を食べる。
ゲームの中でのセリアとフェリクスなら考えられないことだ。
庭園につくと、すでにテーブルと椅子がセットされて、美味しそうなご飯が運ばれていた。フェリクスが手配させたものらしい。
二人で椅子に座る。庭園の花はゲーム終盤に見られるラベンダーに変わっていた。
落ち着いた頃、フェリクスが話す。
「時間をとって悪かった。皆の前ではきちんと話をすることはためらわれてな・・・・・・どこか悪くはしていないだろうか?」
牢獄に入れられたが身体はどうかと聞きたいのだろう。
確かに聞ける訳はない。あのドラゴンの事件は内密にされていた。
王族の命が危険にさらされたこと、ドラゴンを使役する者がいること。それに伴って、私が牢獄に入れられたことももちろん公表されていない。
少なかった目撃者には多額の金を渡して黙らせてたのだと、クロードが言っていた。
私は微笑んで返した。
「大丈夫です。それより我が家の使用人は今どうしていますか」
聞きたかったことを直球で話す。フェリクスの表情がこわばる。
「セリア、彼はもういないものと思ってくれ。身柄は国で預かることになる。ドラゴンを使役することが出来るんだ。アデレード家で管理できる人物ではない」
想定の範囲の返事が返ってくるが、ここでめげるわけにはいかない。
「殿下、セルジュは私の専属使用人です。私に心から尽くしてくれた彼がどうなっているか知りたいのです」
殊勝な態度で話すが、フェリクスの表情はだんだん曇っていく。
「・・・・・・たかが使用人だろう。何をそこまでこだわる」
「私が辛い状況にいるときに、支えてくれたのは彼でした。そんな彼が同じように辛い状況にあっているのであれば、私は力を尽くしたいのです」
私がそう言った途端、フェリクスは立ち上がる。
「あなたは私の婚約者だろう?他の男になぜそのような表情をする!」
今まで聞いたことのない声を上げた。フェリクスは怒りで震えながらこちらを見ている。
それはまるで嫉妬しているようだった。
どういうことだ。彼は今レナの攻略対象ではないのか。
ゲームも終盤であれば、狙っている攻略対象の好感度はかなりのものになっているはずだ。わき目もふらず、主人公のことを見ているはず。
フェリクスは続けて言った。
「彼は今、王家の別宮にレナとともに住んでいる。一生をそこで過ごすことになるだろう。・・・・・・もし、これ以上彼に執着をするようなら、君に対してもそれ相応の対応をさせてもらう。だが、私の婚約者殿は、決してそんなことはしないだろう?」
フェリクスはそう言って、試すようにこちらを見ていた。
セリアが何かするのなら、セルジュの命は無いということだ。
これ以上彼を刺激してもいいことはない。
私は話をすることをあきらめて、目の前の食事に手をつけた。
反応が薄い私に、フェリクスがあれこれと話しかける。それはゲームでフェリクスに
ひたすら話しかけるセリアのようだった。
立場が逆転している。
レナへの好感度はどうなっているのだろうか?




