大切な人を守るために
次の日私は釈放され、アデレードの家に帰ってきた。
地下牢で冷えた身体が熱を出して、ふらふらになってなんとか立っていた私を出迎えたクロードはいたわり、しばらくは部屋で養生するようにと言っていた。
貴族の家の者が地下牢に入れられたなんて最大級に不名誉なことだ。
実際、少しは改善された使用人の態度はまた悪化した。
部屋で休んでいる間、何人かの使用人が食事を持ってきたが、皆一言もしゃべらずすぐに立ち去っていく。
そして、当たり前だがセルジュはどこにもいなかった。
二日経ち、ようやく身体が回復してクロードに話を聞きに行く。
私が湖のほとりで捕縛され、地下牢に閉じこめられている間に起こったことはめまぐるしいものだった。
セルジュはドラゴンを呼び、王族を傷つけようとした罪でその場で処刑されるところだった。
だが、レナの一声でそれは覆った。
レナ自身がセルジュの出生を本人から聞いて、彼がもう死に絶えたドラゴンマスターの生き残りだとフェリクス達に伝え、それを国防のために利用すればいいと提案したらしい。エリクが難色を示したが、彼が暴走したときも、レナの聖女の力でドラゴンは滅ぼすことができると自分の力もアピールしてみせた。
その時のレナの様子は、普段とかけ離れて必死だったという。
セルジュはあのとき我を忘れていた。それにこの湖に来ることは学園の意向であったので彼の意志ではない。ドラゴンを使って王族を攻撃しようとあらかじめ計画していたわけではない。
セリアがセルジュを連れてきたので、彼女の差し金かもしれないが、そこは本人を取り調べたほうがいい。
そう訴えて、セルジュの存命を主張した。
セルジュが、レナの手に落ちてしまった。
命がつながったことは喜ばしいが、これからは保証されていない。
彼はこれからどんな扱いを受けるかわからない。そう嘆く私に、クロードが言った。
「彼は、セリアを救おうとしてその道を選んだんだ」
「・・・・・・・私を?」
「あのドラゴンの事件は、セリアの差し金かどうかの疑惑が残っていた。主人であるあなたであれば、セルジュの出生の秘密を知っていた可能性があるし、湖に連れてくることもできる。すべて知った上で行ったことではないかと。地下牢で取り調べをすると言ったときに、セルジュが申し出たのだ。自分は何でもするからお嬢様にそのようなことはしないでほしいと。レナの説得とセルジュの懇願で殿下はそれを受け入れた」
「その割に私は地下牢にしばらくいたけれど」
「私は抗議したが、エリクが頑なだったのだ。ことが収まるまでは容疑者として隔離しておこうと」
すべて話を聞き終わり、大きくため息をついた。
「セルジュのこれからの処遇はどうなるの?」
私の問いかけに、クロードは顔をしかめながら答える。
「アデレード家の使用人から、王家の使用人に召し上げられたということになっている。だが、実際は一生日の目を見ないような生活になるだろう。捕虜に近い存在だからな。・・・・・・あなたと会うことはないだろう」
わかってはいたが、いざそれを言われると心臓が刺されるようなショックと悲しみにおそわれる。
この世界で唯一私の手を取ってくれた存在だ。
自分の状況を考えれば、おとなしくしていたほうがいい。主人公と関わるのは命がいくらあっても足りないのはこの前で痛感した。
けれど、もう心の中の本当の気持ちは無視できない。
この世界で彼なしで生きていくことなどできない。
私はクロードに言った。
「このタイミングで話を出すのはさすがに性格悪いと思うけど、今まであなたがしてきたことを一気に精算したい。私の願いにつきあってくれる?」
クロードは突然の提案に面食らうも、苦笑しながら答える。
「セルジュを助けたいということだろう?・・・・・・そんなにあの使用人が大切なんだな」
「彼は私に寄り添ってくれた唯一の人だから」
私の言葉にクロードは考え込み、うなづいた。
「わかった。セルジュを取り戻す方法を考えよう」
提案が通るとは思わず、思わず驚く。
「・・・・・・いいの?アデレード家の立場が悪くなるかもしれない」
クロードは肩をすくめる。
「それは元からだろう?評判の悪い妹に、血がつながっていない跡取り。次期に没落するだろうと言われていたんだ。今更だろう」
クロードはふっきれたような晴れやかな顔をして笑った。今までの彼からは考えられない。
ゲームでも、セリアとしての目線でも見たことがないクロードの姿。
悪役令嬢ルートで、彼の本当の姿を見たことが関係しているのだろうか。
何にせよ、これからはより一層身を引き締めていかねばらない。
相手は主人公とフェリクス。ラスボスに挑むようなものだ。
物語から大きくはずれる展開に、いったい何が待ち受けているのだろう。




