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ドラゴンの出現


1番は論外だ。悪意が強すぎて何をつけても言い逃れができない。

残るは2番か3番だ。この中でもっとも毒気がなくて、言い回しが聞くもの。

私は意を決して3番を選んだ。


身体の主導権が奪われる。口が開き、声高に言った。

「ここには不要な存在だからよ」


目の前のエリクが怒りに染まる。だが、それは想定内だ。彼が口を開く前に、不要な存在は『私』だという話にもっていく。

仲睦まじい4人の中に不要なのは私。だから私は出て行くが、レナさんに腕が当たってしまったと。事故によるものだったという話に持って行く予定だった。


だが、ここで私やエリクより先に口を開いた者がいた。

「ひどい!そんな・・・・・・いくら私が悪かったとはいえ、不要とはひどいです!」

レナが叫んで、フェリクスにすがった。


皆の目が、私を責めたものになる。

この空気では後から何を足しても焼け石に水にしかならないだろう。

・・・・・・ここから逆転することはできなくなってしまった。


レナに対抗策を取られた。

今までの私の行動を見て、悪役令嬢の本来の台詞に、行動や言葉を追加して意味を変えてきたことを見透かされ、それを先に封じられたのだ。


かつてない窮地だった。

どうすればいい。どうやってこの状況を覆せばいい。

焦りで何も言葉が浮かばない。皆の責める目線が身体に杭のように突き刺さってくる。


何か考えなきゃ、何か・・・・・・!


そのとき、後ろのセルジュが言った。

「お嬢様は何もしておりません!」


振り返れば、セルジュが立ち上がってエリクを睨みつけていた。

元奴隷の使用人が、高位の貴族を睨みつけている。あり得ない光景だ。

セルジュの目を見て、彼が怒りで我を忘れていることがわかる。

赤い目が血が沸騰するように輝いた。


その瞬間。


大地が大きく揺れる。

セルジュ以外の皆が何が起こったのかと周りを見回す。

木々がざわめいて、湖がざわめく。


まさか。


私は湖の中央へ目を向けた。湖の中心、波が発生しているとこに黒い陰が現れ、そして姿を表した。


ドラゴンだ。


ゲームの中で見たままだった。白い鱗に、赤い瞳。恐ろしく強大な姿を見せて、こちらを睨みつけている。

ゲームでは旅行の最終日に現れるはずだったのに、なぜ。


ふと、目の前にいるレナの視線がセルジュに向いていることに気がつく。

ドラゴンはセルジュに反応するようにこちらに向かってくる。

先ほどのセルジュの話を思い出す。彼の祖先はドラゴンを使役していたと言っていた。もし、彼の身に流れる血によって、その力が受け継がれていたら。


それはどうやら当たっていたらしい。レナがセルジュに向かって言った。

「あなた、もしかしてターチェスの子孫なの?元々この地方の国で、ドラゴンを使役していたという」

詳細を語る。まるでキャラクター設定を読んでいるように。


レナは知っているのだ。セルジュのことを。


エリクの目線がセルジュに定まる。

「あのドラゴンは貴様が操っているのか!」


セルジュは依然として反応せず、エリクのことを睨みつけるばかりだ。

ドラゴンはセルジュの怒りに反応するように、こちらへやってくる。

エリクは、セルジュに向かってどなった。

「あいつを止めろ!」

それに、セルジュが静かに返した。

「あなた方がお嬢様に謝るのが先です」


「何を!?」


「お嬢様は何もしておりません。不名誉な言いがかりを撤回してください」


私はセルジュを見上げる。

彼の目には涙がたまっていた。主人である私を守ろうと、怒りであふれている。

だが、状況はさらに悪化していく。エリクが剣を振りかぶった。

「あのドラゴンを止まらせるには、おまえの命を絶つしかないようだな」

今にも振り下ろそうとする剣を見て、私はとっさにセルジュの前に立った。

「やめて!」

だが、私がでてきたところで状況が良くなることはなかった。

エリクは言う。

「私の使命はこの国の未来の王である殿下と、聖女のレナを守ること。そのためならあらゆる犠牲を払うことをいとわない」


そう言って剣を振り下ろされる。

スローモーションのような剣の切っ先がこちらに降りてくるのが見える。


あぁ、私は選択肢を間違えてしまったのだ。

ここで終わりなのか。

私は処刑されてしまう。

けれど、セルジュはどうなってしまうのだ。


彼は私に巻き込まれた。

ドラゴンを召還し王族に危害を加えようとした罪で、処刑されてしまうだろう。


恐ろしさとセルジュへの申し訳なさで涙があふれる。


だが、そこで状況の変化が起きた。


エリクの背後で光があふれた。

まばゆい光の中で何とか目を開けて見れば、レナの周りに光があふれていた。

彼女はこの場に似つかわしくない笑みで、ゆったりと微笑む。

その光景に見覚えがあった。ゲームのスチルの光景そのものだ。


彼女は聖女の魔法をつかったのだ。


レナは身体の前で手を組み、祈りのポーズをする。

すると光が増幅し、そしてレナが目を開いてドラゴンに向かって両手を開いた瞬間、聖なる魔法がドラゴンに向かって放たれた。


すさまじい轟音が辺りに響きわたる。

ドラゴンは聖女の魔法を浴びて断末魔をあげると、徐々に石化していって、そして止まった。


皆が呆然とする中、レナが微笑む。

「みなさん、もう大丈夫です。私が聖魔法でドラゴンを鎮めました」


そしてレナの目線が私に向けられる。

「セリア様、これはあなたの差し金ですか?」


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