第二幕のはじまり
レナや攻略対象を警戒する日々が過ぎ、いつのまにか5月のイベントがやってきた。
前世で言えば修学旅行のようなもので、生徒たちが国の保養地などに遊びに行くのだ。
だが、全員が同じ場所というわけではなかった。
貴族のランクなどに応じて、行く場所は別れる。
多くの生徒は、海辺の保養地へ向かうが、王族をはじめとした有力貴族や国の重要人物は国の中でも高級なエリアである湖の保養地へいく。
そこは不思議な水質により季節によって色を変える湖とされていた。
主人公と攻略対象、そして悪役令嬢はここに行くことになる。
湖には実は昔の聖女が封印したドラゴンが眠っていて、主人公が近づいたことで刺激してしまい、襲われそうになるというストーリーだ。
そこで、攻略対象に守られつつ真の聖女の力が開花してドラゴンを倒すというものだった。
攻略対象の好感度上昇とともに、名声も獲得出来るイベントだった。
これを機に、主人公は名実ともに聖女となっていく。
この遠出は一週間と長く滞在することになるので、ここでは使用人を連れて行くことになっていた。
私の専属使用人はセルジュ一人。連れて行くなら彼ということになる。
この前のレナの発言を思えば、接触する機会が増えるこのイベントに連れて行くのはためらわれた。
けれど、記憶の中でのゲームを思い出す。
イベントはスキップすることも出来た。つまり不参加だ。
ファンがルートを何度も遊べるように、時間がかかるイベントをとばせたり、一定の条件で発生する特殊イベントを楽しめたりするためだ。
特殊イベントといっても、最後のエンディングで着るドレスを買ってスチルを変える事が出来るとか些細なもので、コアなファン向けの作りになっている。
だが、もし私がセルジュを置いていく事を想定してイベントをスキップしたら。
その一週間でセルジュに接近されるかもしれない。
悩んだすえ、私はセルジュを連れて行くことにした。
イベント中、ずっとセルジュと離れなければいいだろう。
セルジュはこの話をすると、とても喜んでいた。
自分が行けることではなく、学校と家の往復をしている私が遠出をすることでリフレッシュ出来るのではと思っているようで、それがうれしいみたいだった。
彼の喜びとは裏腹に、私は地雷原にでも突入するような心持ちになっていた。
何事もないよう。私にも、セルジュにも。
だが、その願いは聞き届けられないことになる。