新たな決意
レナが帰り、セルジュがおずおずと私に訪ねる。
「お客様はもうお帰りになったのですか?」
「えぇ、もう用は済んだみたい・・・・・・そのお茶はセルジュが飲んで。私はあなたのものが残っているし。人のために入れたものを勧めるのは申し訳ないけれど」
セルジュは戸惑ったが、先ほどと同じ位置に座った。
「いいえ!セリア様とお茶のお時間がいただけてとてもうれしいです」
うれしそうに笑うセルジュを見て、先ほどのレナの言葉を思い出す。
彼が追加ルートとして攻略対象になった。
私がここに転生するときはそんなルートはなかった。
あのゲームは人気だったから、追加コンテンツが出てもおかしくない。
だが、あっても追加のイベントくらいならあり得ると思うが、攻略対象を増やすような大幅な増加があるなんて。
セルジュが描かれたエンディングのスチルが話題になっていた。
それを受けて急遽追加されたのか、それとも元々追加するつもりで予告として描かれていたのか。
レナはいろんなルートを攻略したといった。
彼女はゲームプレイヤーで、すでにフェリクスやエリク、クロードを攻略した後なのだろう。
だとしたら予想以上に強敵だ。これから起こるイベントをすべて把握しているのだから。
今度のイベントはより一層厳しくなる。
状況が改善したことで、余裕が出た心に再び緊張が走る。
私はまだ綱渡りをしている状況なのだ。
考え込んで、そしていつの間にか日が落ちていた。
空がオレンジとかすかな黒のグラデーションになり、夕日に照らされたセルジュがこちらを心配そうに見ていた。
「何か、心配事があるのでしょうか」
セルジュは続ける。
「お嬢様のお心を晴らすことは出来ないのかもしれませんが、共にいることは出来ます。・・・・・・涙も、私の前では流してください。決して誰にも言いません」
セルジュの言葉で、自分の目に涙がたまっていることに気がついた。
これからのことを考え、恐怖と緊張で涙ぐんでいたようだ。
彼が私のそばから離れていくのは耐えられない。こうして献身的に支えてくれているから、私はなんとかここまで生きてきた。
すべてを持ち、そして得られる主人公から、悪役令嬢が唯一得た人を奪われる。
この世界はどこまで私に理不尽に出来ているの。
うつむいて落ちそうになった涙をこらえてあわてて前を向く。
するとセルジュが私の頬にハンカチを添えてくれた。
ハンカチ越しに伝わるセルジュの体温が暖かくて、余計涙があふれてしまった。
この優しさを渡したくない。
新たな目標が出来た。このゲームのエンディングまで生き残ることだけではない。
レナからセルジュを守ること。
夕日の中で優しく微笑むセルジュ。
この日々がずっと続くように、最善を尽くそう。




