新規の攻略対象者
驚きで声も出ない。学園でしか合わないはずの彼女がなぜここに?
混乱する私をよそに、レナは笑って言った。
「今日はセリアさんにご用があって来たんです。ですが、家にはいないとクロードに言われてしまって。仕方なく帰ろうとしたところに、庭でお茶を飲むセリアさんを見つけて、こうして来ちゃったの」
こうして来ちゃったというが、私が今座っている場所は門から家に続く道からは見えないところだ。
偶然見かけてこられるようなところではない。明確な意志をもって私に会いに来ている。
レナは言った。
「ここ座っていいかしら?お話がしたくて」
訪ねられて断る訳にはいかない。彼女はこのゲームの中心人物だ。
私はうなずいた。
それと同時に、セルジュが急いで立ち上がる。
「失礼いたしました。今、お客様のお茶もお持ちします」
そう言って、慌てて屋敷の方へ小走りに向かった。
それを見届けている時に、レナもセルジュをじっと見つめていることに気がつく。その目は妙に熱心だった。
レナは私に見られていることに気がついたのだろう。
セルジュから視線をはずし、こちらを見た。
「今日は突然押し掛けてごめんなさい。この前のお茶会のことを話したくて」
お茶会イベントのことだ。
あのときレナはプレイヤーなのだと思った。ストーリーをすべて知っているプレイヤー。
その彼女が悪役令嬢に積極的に接していることが信じられなかった。
警戒もあって、こちらからは何も声を出さないでいると、レナが話し始めた。
「お茶会で騒ぎを起こしてしまったでしょう?だから謝ろうと思って」
そう言って頭を下げた。
『悪役令嬢』としてはどういう態度をとるべきか。今更だが、彼女が私を怪しんでいる以上、役柄から大きくはずれた態度をとるのは得策ではない。
「今更いいわ。あなたの顔は見たくないから、謝罪の気持ちがあるなら早く帰って」
出来るだけ冷淡に言った。セリアの外見と相まって、空気が冷えるような冷たさが出たはずだ。だが、目の前のレナは動じない。
むしろおもしろそうにこちらを見ている。
「ねぇ、それって演技?」
「え?」
「悪役令嬢の演技をしてるの?」
彼女は、確信を持って私に訪ねていた。
「あなた、『ちゃんとした』悪役令嬢じゃないでしょ?今までの彼女とは明らかに違うもの。みっともなく騒ぎ立てるだけで、最後はただ処刑されるだけだったあなたが、あんなトリックをしかけてくるなんて。まぁ、注目を集めるためにカップを落としたのは失敗だったわ。周りのあなたの好感度をあげることになっちゃった」
「・・・・・・あなたが何を言っているのかわからないわ」
「まだしらを切るの?いいわ。何度も繰り返して、ようやくこのルートにたどり着いたのよ。邪魔をされるわけにはいかないの。彼の・・・・・・セルジュのルートをね」
レナは言いたいことを言い終わったのか、立ち上がる動作をする。
セルジュの話を出されて目を見開いた。
「なぜ、うちの使用人の話が出てくるの」
レナは去り際に言った。
「セルジュはね、追加された新ルートの攻略対象。悪役令嬢の元にいる彼を救い出す最難関ルートよ」
呆然とする私はその場に残される。
そこに、セルジュがレナ用のお茶を持って現れた。
いつのまにか帰ったお客様に困惑するセルジュを見つめる。
彼も攻略対象になったというの?




