思わぬ来訪者
お茶会も終わり、再び学園に日常が戻ってくる。
あのお茶会以来、少しずつだが周りの生徒と交流するようになった。
生徒会の手伝いをした時の話などが人づてに伝わって、今まで関わりのなかった生徒達が時々話しかけてくるようになった。
今までの悪い評判が少し変化したらしい。
お昼を一緒にというお誘いや、授業の席の隣に座るなど、今まででは考えられないようなことが起きている。
それはアデレード家の屋敷でも同じだった。
あの後、クロードはみんなに本当のことを説明したらしい。落ちた時のことは自分の不注意だったこと。セリアに非はないこと。
それを使用人達が受け入れて、劇的に変化をした訳ではなかった。人間不信になったセリアにつらく当たられた者も多く、きっかけは同情すべきだったものとしても、それで今までのことを帳消しには出来ないという者も多かった。
だが、これまでのように直接さげすまれることはなくなった。貴族の令嬢として形だけでも敬意は払われるようになった。
それを機に、侍女をつけてはどうかという話がクロードからあった。アデレード家の令嬢として、専属の使用人一人では少なすぎるだろうということだった。
もっともな話だとは思うが、私は断った。
すでに自分である程度のことは出来るようになったし、セルジュもいてくれる。
新しい人が入ることで、落ち着ける時間を減らされたくはなかった。
その日も、家の庭園でセルジュが入れてくれたお茶を飲んでいた。
居心地が悪かった時のなごりで、休日は部屋の中に閉じこもるか、こうして藤棚のテーブルに本を持って行って過ごすことが多かった。
今日もテーブルの上には、彼お手製のお菓子とお茶が並んでいる。
私のお昼ご飯はアデレード家のシェフが作るようになったのだが、セルジュ自体が料理をする楽しさを覚えたのか、お茶菓子を作ってくれるようになった。
セルジュははにかんで言った。
「お口に合えばいいのですが」
私は笑って返す。
「どのお菓子もとてもおいしいわ。・・・・・・それより、セルジュも座ったら?」
彼はずっと邪魔にならない位置で立っていた。
セルジュは首を振る。
「滅相もないです。お嬢様と同じ席につくことは・・・・・・」
「そんなこと言わないで。あなたが立って疲れるんじゃないかってそわそわしてしまうもの。ここに座って」
自分の向かいをそっと示す。
セルジュは戸惑ったものの、私が折れないと悟ったのかおずおずと座った。
彼もちゃんと休める体勢になったところで、安心してお菓子を摘む。
今日はいい天気だった。状況は少しだけ進展したし、今月のイベントはまだ先だ。
しばらくは穏やかな日々がすごせるだろうという余裕で、気分も少し晴れやかになる。
だが、それは意外な来訪者のせいで立ち消えた。
「こちらにいたんですね、セリアさん」
背筋が凍り付く。ここで聴くはずのない声。
私はおそるおそる振り返る。
そこには主人公・・・・・・レナが立っていた。