本当のお茶会
無事、お茶会を切り抜けることが出来た。
昨日探しだしたお茶は、前世で飲んだことのある『バタフライピー』というお茶に似たものだった。
酸味のある果汁を加えると色が変化する。趣味のカフェ巡りで飲んだことがあったものだ。
保険を作っておいたのだ。
ゲームのシナリオが変化しないのなら、その内容を書き換えようと考えた。
『セリアが用意したお茶の色が変化し、毒を入れたと疑われる』。これがゲームのシナリオだ。
そのシナリオに沿った色の変わるお茶を用意した。もしゲームの通りに毒入りの紅茶になっていたとしても、自分で同じ現象が起こる無害な紅茶を用意しておけば、疑いをすりぬけられるのではと考えたのだ。
今回は上手くことが運び、イベントを切り抜けることが出来た。
だが、次もそうはいかないだろう。
これから、もっと過酷な日々になるだろう。
レナがゲームプレイヤーだとわかった今、セリアが通常の行動をしていないのであればより警戒されるだろう。
気を引き締めていかないとならない。
ようやく馬車が家につき、出迎えたセルジュの手を取る。
家に戻る途中で、セルジュが控えめに言った。
「あの・・・・・・もしよろしければ、お茶をいかがですか?」
あの店主に、おいしい紅茶の入れ方を聞いたのだ、と恥ずかしそうに言った。
よろしければこちらに、と案内されたのは、アデレード家の一角にある藤棚だった。
紫色の花が揺れ、幻想的な雰囲気が漂っている。
その下にテーブルとイスが用意されていた。
促されて座れば、藤の空気で包まれてとても心地がいい空間だった。
「庭にこんな場所があるなんて知らなかった」
セルジュに言えば、彼は照れながら答える。
「セリア様の部屋に飾るお花を探している時に見つけました」
セルジュはきれいなブランケットを差し出す。
「まだ夜は冷えますので、よろしければ」
肩にかかったブランケットは暖かく、今まで緊張していた身体がほどけていくのがわかる。
そして、次にセルジュが持ってきたのは、私が今日のお茶会で出したムーンライトだった。
「今日、改めてあのお店に行ったときに、店主さんに教えてもらったんです。こうしたらまた変わった飲み方が出来るって」
そう言って持ってきてくれたのは、いろいろな種類のフルーツが浮かんだティーポットだった。
中には蜂蜜も入っているのか、注がれるときの湯気が甘い。
お茶とフルーツの豊かな味が染み渡るようだった。
「おいしい。・・・・・・それに、月の下で飲むと格別ね」
藤棚の隙間から漏れる月の光が、ティーカップを照らしていた。
セルジュは照れて赤くなる。
「この場で飲んでいただくのがぴったりだと思ったのです。日々、気をはっておられるセリア様が安らげればと・・・・・・」
アデレード家の中でも緊張している私の姿を見て、なんとかしようと思ったのだろう。
それがうれしかった。
藤棚と、月の光と、彼が持ってきてくれたブランケットに守られて、私はようやくこころからの笑顔になれた気がする。
「ありがとう。セルジュがいてくれてほんとうによかった」
彼は、心の底からうれしそうに笑った。