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蝶が舞い降りた

イベントは起こってしまった。

紅茶を用意したのは私で、入れたのも私。容疑者としては十分の要素だろう。


国が招いた聖女を毒殺した。選択肢を間違えれば、処刑ルート確実だ。


お茶会に出席している生徒全員がこのテーブルに注視している。

ここでミスが出来ない。絶対に。

私は震える手で、「2 毒を飲んだなんて気のせいじゃない?」を選んだ。


とたんに、身体の主導権が奪われる。

口がかってに動き、レナに言った。

「毒を飲んだなんて気のせいじゃない?」


空気が一気に変わる。

攻略対象は徐々に怒りの表情になり、となりのエリクは私の手を取って拘束した。

「なんということを!紅茶の色が彼女だけ違うのをあなたも見ただろう!」


とたんに、主導権が戻ってくる。私はエリクを睨みつけながら言った。

「離してください。暴れたり逃げたりはいたしません。今からそれを説明します」


いつもだったら暴れるであろうセリアが、冷静に言い返している。

エリクは警戒しながらも、腕の拘束を解いた。

私は軽く身を整えて、ティーポットを用意していた生徒を呼んで、追加の茶葉を持ってこさせた。

「これは、そういうお茶なのです」


ティーポットに茶葉を入れて、持ってきてもらったお湯を注ぎ新しいティーカップに注ぐ。

そして、テーブルの中央にあるレモンタルトを手に取り、うえのレモンジュレをスプーンですくいティーカップの中に入れた。

そのままくるりとまわすと、色が変化していく。


周りの生徒は驚き、レナを支えていたフェリクスも呆気にとられた。

「これはどういうことだ?」


「これは『ムーンライト』という珍しいお茶です。酸味のある果汁を入れると、このように色が変化します。たとえば、このレモンタルトのようなものがあれば」


そう言って、そのお茶をそのまま飲んで見せた。

「きっと、レナ様の唇についていたレモンタルトのジュレに反応したのでしょう。・・・・・・珍しいお茶ですから、動揺するのも無理はありません」


周りの空気が、徐々に変わっていくのがわかる。私を疑う目が解けていく。

最後にだめ押しをした。

「こちらの刻印を見てください。街で長く続く店のものです。疑いが解けないようでしたら、店主に話を聞きに行ってください。昨日、私が買ったと証言してくれるでしょう」


町でも老舗の店の刻印だ。利用している貴族も多いのか、包みを見て納得する生徒が出てきた。


場は完全に私の流れだ。

レナを見る。


彼女は黙って目をつむっていたが、周りの目に耐えきれなくなったのだろう。

ようやく口を開いた。

「近頃よく眠れなかったので、そのせいかもしれません。・・・・・・休むところはありますか?」

「生徒会室のカウチを使うといい。・・・・・・君、彼女を送ってくれるか」

フェリクスは近くにいた女生徒を呼んで、レナを送らせた。


お茶会を続ける雰囲気ではなくなり、早めに閉会となった。

私を疑ったことを気まずいと思っているのか、同じテーブルの彼らは一言も話さない。


その中で、さっきのレナの目を思い出していた。

女生徒に支えられれ、立ち上がるときに一瞬見た彼女の目。


殺意を感じるような目だった。


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